離婚は夫婦のどちらにとっても大きな負担になるため、何から手をつければいいのかわからないというケースは少なくありません。
特に居住中のマンションの取り扱いについては、住宅ローンが残っていたり引っ越しをしなくてはいけなかったりと多くの問題が浮上することも多く、重大な決断をするための心労も相当なものです。
お互いの金銭的負担を減らしつつ公平に財産分与を行うためには、マンションを売却することも視野に入れる必要があるでしょう。マンションを売却するかどうか判断するポイントと、実際に売却する場合にどのように進めればいいのかを詳しく解説します。
1 .離婚による財産分与とは
財産分与とは、結婚してから夫婦二人で築き上げた共有財産を夫婦で分配することです。原則として分配率は2等分と平等に分配されます。以下では、財産分与の対象となる共有財産について解説します。
1-1 .離婚するときは家も財産分与の対象となる
原則として結婚している間に夫婦で築き上げた財産は全て財産分与の対象となるため、マンションなどの持ち家も対象となります。
なお、不動産の名義は夫の単独名義であっても、結婚後に購入した家であれば財産分与の対象です。
家を財産分与で分ける際には、下記のような方法で分与されます。
- 家を売却して売却代金を分配する
- どちらかが家を譲り受けて相手への分与分はを現金で支払う
1-2 .特有財産は財産分与の対象外
特有財産とは、共有財産の対になる言葉で、夫婦のどちらか一方に帰属している財産のことです。特有財産は財産分与の対象外です。
特有財産には、例えば、結婚前から所有していた財産や、親から相続した財産が含まれます。住宅の場合、結婚前から所有していた住宅や、親から相続した住宅であれば特有財産です。
また、住宅購入時に親から資金援助を受けていればその資金援助の比率に応じた部分が特有財産となります。
例えば、購入価格4,000万円の住宅について、半分(比率1/2)の2,000万円を親に援助してもらったとします。売却時の価格が3,000万円であれば、特有財産は援助された2,000万円ではなく、比率1/2に応じた1,500万円分となります。
1-2-1 .結婚前に購入した家でも共有財産となる部分もある
結婚前から所有していた家は特有財産であるとお伝えしましたが、例外もあります。
結婚後にも住宅ローンを支払い続けていた場合は、結婚前から所有していた家であっても、結婚後に支払った金額の比率に応じた部分は共有財産となります。
結婚前から住宅ローンを支払っていた部分は特有財産、結婚後に夫婦で支払っていた部分は共有財産となります。
1-2-2 .結婚後に購入した家でも特有財産となる部分もある
結婚後に購入した家でも特有財産となる部分もあります。
例えば、結婚後に家を購入する際に、頭金として結婚前からの所有していた預金を使った場合などです。頭金の部分については、結婚前のその人個人の資金で支払っているため、この部分は支払った人の特有財産となります。
特有財産を原資として別の資産を得た場合でも、その資産は特有財産となり、財産分与の対象にはなりません。
2 .家を財産分与する方法
家を財産分与する方法は、家を売却するかしないかによって、方法が異なります。以下では家を売却する場合と売却しない場合の財産分与の方法について具体的に紹介します。
2-1 .家の売却代金を分与する
家を財産分与する方法として、家を売却してその売却代金を分与する方法があります。
家の売却代金を分与する方法では、財産の金額が明確になるため、納得感をもって分け合うことができ、トラブルになりにくいといえます。
また、離婚後は新たな住居が必要となるなど何かと資金が必要となるため、現金が手に入るのは、離婚後の生活の金銭的な負担を軽減できるという利点もあります。
2-2 .家を売却せず評価額に応じて分与する
家を財産分与する方法として、家を売却しないで家の評価額に応じて分与する方法もあります。ただし、不動産の評価額を算定する方法には複数種類あり、種類によって評価額に差が生じるため、トラブルが起きやすい方法といえます、
評価方法によって金額が変わってくるため、どの評価方法に基づいた評価額を採用するかについて夫婦でよく話し合う必要があります。
2-2-1 .資力があれば相手の持分を買い取る
家を売却しない分与方法としては、夫婦のどちらか一方が相手の持ち分を買い取って家に住み続けるケースがあります。
その場合、引き続き家に住む人が、相手方に分与分に相当する金額を支払うことになります。分与分に相当する金額は家の評価額に応じて算定されます。
ただし、家の評価額は高額であることが多いため、十分な資金力がなければこの方法の実現は難しいといえます。資金力がある場合にのみ、相手の持ち分を買い取って住み続けることができます。
2-2-2 .家のかわりとなる財産を渡す
家を売却せずに財産分与をする場合、家を譲り受ける人が、相手方に相応額のほかの財産を渡す方法があります。
例えば家の評価額が3,000万円だった場合、家を譲り受ける人が、家の評価額の半分の1,500万円に相当するほかの財産を相手に譲るといった具合になります。
とはいえ、家の評価額は金額が大きいため、ほかの財産を譲っても金額的に足りない場合があります。その場合には、自己資金から不足分を出すなどして調整します。
2-2-3 .家を売却をしない財産分与は資産価値の把握が重要
家を売却せずに財産分与する場合、家の資産価値がどの程度なのか把握することが重要といえます。
不動産の評価方法にはさまざまな方法があります。実際に売却するときの価格に近い査定額を把握するためにも、複数の不動産会社に査定を依頼することがおすすめです。
複数社に査定を依頼する場合には、不動産一括査定サービスの「おうちクラベル」の利用がおすすめです。一度に複数社への査定を依頼することができ、手間と時間を省くことができます。
3 .離婚後も家を売却しない場合の注意点
離婚後も家を売却しないで住み続ける場合には、新居探しや引越しなどの金銭的・時間的な負担を避けられるうえ、子どもの転校が不要になるなど子どもの負担も避けられます。しかし、家を売却しない場合には、注意したい点がいくつかあります。以下で具体的に解説します。
3-1 .財産分与の方法について
離婚後も家を売却しない場合には、財産分与の方法について話し合いが必要となります。家は高額の財産のため、評価額の決め方1つをとっても簡単には決まりません。
また、納得できる評価額を得られたとしても、どうやって支払うかなどの調整も必要となり、話し合いには手間と時間がかかります。
まずは、公平な評価額を得るために。不動産会社に査定を依頼するようにしましょう。不動産会社によって査定方法が異なるため、査定を依頼するときは、不動産一括査定サービスなどを利用して複数社に問い合わせることが大切です。
3-2 .住宅ローンの残債の支払方法について
住宅ローンの残債の支払い方法についても話し合いが必要です。
住宅ローンの支払い義務があるのは住宅ローンの名義人です。離婚したからといって自動的に切り替わるわけではないため、住宅ローンの残債について誰が支払うかはっきりさせておく必要があります。
特に今後住み続ける人と、住宅ローンの名義人が異なっている場合、住まない人がローンの支払い義務をずっと負うことになり、不公平感がでます。また、万が一、名義人がローンの支払いを滞らせた場合、住宅が差し押さえられるなど、住んでいる人は住まいを失う可能性もあります。
住宅ローンの残債がある場合は、離婚前に支払いについてしっかり話し合っておきましょう。
3-3 .住宅の名義について
家を売却しない場合、実際に家に住む人に合わせて住宅の名義を変更しておくことがおすすめです。
家を共有名義で建てた場合、共有名義のままにしていると、今後家を売却したり、建て直したりする際に、もう1人の名義人の承諾を取る必要があります。その都度、名義人に確認が必要となるため、財産分与のタイミングで名義変更をしておくようにしましょう。
なお、住宅ローンの残債がある場合、金融機関が名義変更を認めないこともあります。住宅の名義変更に金融機関の許可を得る必要はないものの、金融機関から一括返済を迫られる場合もあるため、注意しましょう。
4 .離婚に合わせて家を売却すればトラブルを避けられる
離婚時に財産分与をする際には、家を売却するか、家を売却せずにどちらかが所有し続けるかの判断をする必要があります。2つの選択肢のうち、家を売却することのほうがおすすめです。以下で理由について紹介します。
4-1 .心機一転して新生活をスタートできる
家を売却することで、複雑な財産分与の話し合いや住宅ローン残債の支払いの問題などから解放されます。
家を持ち続ける場合は、離婚時に分与する金額の調整や、住宅ローンの支払いや名義人の変更など、話し合わなければならないことが多くあります。うまく調整できないと、離婚後も元配偶者と連絡を取る必要が生じます。
住宅を売却する場合は、そうした煩わしさから解放され、心機一転して新生活をスタートできます。
4-2 .公平な財産分与ができる
家を売却したほうが、公平な財産分与ができます。家を売却することで家の価格が明確になるため、分与額でもめることがありません。
一方の売却しないでどちらかが住み続ける場合は、分与の元となる家の評価額について納得感が得られないことが少なくありません。後で売却することになって、当時の評価額と大きく異なると「損をした」「財産分与は不公平だった」と感じることもあります。
その点、家を売却してしっかりと現金化することで、不公平感なく分配することができます。
4-3 .住宅ローン残債の問題を回避できる
家を売却することで住宅ローン残債の問題を回避することができます。
家を売却しないで住宅ローンの残債が残っている場合、
- 誰が支払うかでもめる
- 住んでいる人と支払う人が一致しないために支払いが滞る
- 住宅ローンの名義人が支払わないために連帯保証人に一括返済が求められる
といったトラブルが起こりがちです。
家を売却する場合は、売却代金で住宅ローンを完済することで、後々のこうしたトラブルを避けられます。
4-4 .ローンを完済できれば売却代金は新生活への資金となる
家を売却してローンを完済できれば、残った売却代金を新生活の資金にあてることができます。
家を売却して売却代金とローン返済にかかる資金とを相殺した残りの代金は、財産分与の対象となります。残った資金の半分を受け取ることで、引っ越し費用や新居の契約費用などの足しにすることができます。
5 .離婚時に住宅ローンの残債がある場合の返済方法
離婚時に住宅ローンのようなマイナスの財産があっても、財産分与の対象にはなりません。しかし、離婚後も住宅ローンの返済義務は残るため、どのように返済していくかを夫婦で話し合う必要があります。そこで以下では、住宅ローンの残債の返済方法について紹介します。
5-1 .住宅の名義人が払い続ける
家を売却せず、住宅ローンの残債がある場合は、住宅の名義人が払い続ける方法がよいでしょう。
居住者である住宅の名義人が返済をすることにしておけば、いつの間にか返済が滞って家が競売にかけられるといった事態を避けることができます。
そのためにも、あらかじめ居住者が住宅の名義人になるように住宅の名義を変更する必要があります。
住宅の名義を変更する際には、事前に住宅ローンの借入先の金融機関に相談しましょう。金融機関の承諾を得ないで勝手に住宅の名義変更をするとローンの契約違反となることがあるからです。
金融機関に事前に相談して、住宅の名義を変更し、住宅の名義人が住宅ローンの名義人となって返済できるようにしましょう。
5-2 .アンダーローンで一括返済する
アンダーローンで住宅ローンを一括返済する方法もあります。
アンダーローンとは、住宅ローンの残債がマンションの売却代金よりも低いことをいいます。アンダーローンの場合は、住宅を売却することでローンを完済することができます。
住宅を売って物件を引渡す際に、住宅の売却代金が振り込まれるため、それを使って住宅ローンを完済することができます。住宅の売買と住宅ローンの完済が同時に一気に成立します。
5-3 .任意売却する
住宅ローンの残債が家の売却代金よりも高いと見込まれる場合は、任意売却をして住宅ローンを返済する方法がよいでしょう。
基本的に住宅は、住宅ローンが完済されないと抵当権が外せないため、売却ができません。アンダーローンの場合は売却代金でローンの完済ができるため、売却することができるものの、売却代金でローンの完済が見込めない場合は、家の売却はできません。
そうした場合は、住宅ローンの借入先の金融機関に相談することで、任意売却が可能となります。任意売却はローンの返済ができない場合に行われる強制競売と異なり、売却時期や売却価格について所有者の希望がある程度とおります。
6 .家を売却するときの方法
家を売却するときの方法としては、不動産会社に買い取ってもらう方法と、不動産会社に仲介してもらい一般の人に売却する方法とがあります。それぞれ解説します。
6-1 .すぐに売るなら買取
家をすぐに売りたい場合には、不動産会社に買い取ってもらう方法がおすすめです。
買取に対応している不動産会社に依頼すれば買取可能です。ただし、買取金額は市場で売買される場合の価格の6~7割程度になります。
すぐに売却したい場合でも、確実に現金化できる方法ですが、売却価格が低くなることに注意しましょう。
6-2 .高く売るなら仲介
家をできるだけ高く売りたい場合は、不動産仲介を依頼する方法がおすすめです。不動産会社に家の売却の仲介を依頼し、一般に広く買い手を探す方法です。
広く買い手を求めることで、相場に近い価格で売却することができます。ただし、売れるまでに時間がかかることがあります。例えばマンションなどの場合は平均して3ヶ月~6ヶ月はかかるといわれています。
不動産仲介を依頼する方法は、時間はかかるものの高く売れる可能性が高い方法です。
7 .離婚時に家を売却するときの流れ
離婚時に家を売却するときの流れについて紹介します。売却するときの流れをあらかじめ把握しておくことでスムーズに手続きを進めることができます。
7-1 .家の所有者や住宅ローンの名義を確認する
まずは、家の所有者や住宅ローンの名義を確認するようにしましょう。家を売却できるのは、家の名義人だけのため、売却前に家の名義を確認する必要があります。また住宅ローンが返済できていないと家の売却はできないため、住宅ローンの名義人と残債を確認するようにしましょう。
7-2 .不動産会社に査定を依頼する
住宅を売却する際には不動産会社に査定を依頼して住宅の売却額の目安を把握することが大切です。
住宅ローンを完済できるかどうかは、家をいくらで売るかによります。そのためにも家の売却価格の見当をつけておくことが大切です。不動産の査定方法が不動産会社によって異なるため、査定は1社だけでなく複数の会社へ依頼して、比較するようにしましょう。
7-3 .不動産会社と媒介契約を締結して売却活動を開始
複数の不動産会社に査定を依頼するなどして、その査定額や対応の良し悪しなどを比較して仲介を依頼する不動産会社を選びましょう。
選んだ不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始します。売却活動は主に不動産会社が広告宣伝をして進めてくれます。売主は購入希望者の内見に立ち会うなどの対応をします。
7-4 .売買契約を締結する
家の買主が見つかったら必要書類を用意し、売買契約を締結します。契約書は不動産会社が用意してくれますが、売主は以下の書類などを用意する必要があります。
売買契約締結時に必要なもの
- 実印・認印
- 身分証明書
- 登記済権利証
- 印鑑証明書
- 収入印紙
なお、通常は売買契約締結時に、仲介手数料の半分を支払います。売買契約締結時に必要なものは事前に準備しておくようにしましょう。
7-5 .決済・物件の引き渡し
売買契約を締結してから1~2ヶ月後に、決済・物件の引渡しが行われます。
物件の引渡し時に、売却代金の入金があり、住宅ローンを返済する際はその資金をもとに即日返済を行ないます。住宅ローンの完済を受けて、住宅の抵当権の抹消手続きが進められます。なお、引き渡し日までに、家財の処分や引っ越しの準備を進めておく必要があります。
8 .家を売却する際にかかる費用と税金
家を売却する際にはさまざまな費用と税金がかかります。実際にどのような費用や税金がどの程度かかるのか、以下で紹介します。高額な費用もあるため、あらかじめ把握し、心づもりをしておきましょう。
8-1 .仲介手数料
家を売却する際には、仲介を依頼した不動産会社に仲介手数料を支払います。
仲介手数料は、不動産会社への成功報酬として支払うものです。家の売買契約が成立したときに仲介手数料の半分を、家の引き渡し時に残りの半分の仲介手数料を支払います。
仲介手数料は上限が定められており、上限は「家の売却代金の3%+6万円+消費税」です。
例えばマンションが3,000万円で売却できれば96万円+消費税が仲介手数料の上限となります。
8-2 .引越し費用
家を売却する際には、新しい家に引っ越すための引っ越し費用が発生します。
引越し費用は、荷物の量や新居までの距離、引越し時期、また引越し業者によっても異なります。特に、就職や転勤で引越しが増える3月や9月は、引っ越しの件数が多いため予約が取りにくいうえに、費用も高くなる傾向です。反対に、8月や11月は引越し件数が少なく引越し費用は比較的安くすみます。
8-3 .印紙税
印紙税は商業取引に伴って作成される文書に対して課税されるものです。
家を売却する場合にも、売買契約の契約書に印紙税がかかります。印紙税は契約書に収入印紙を貼ることで納税します。
印紙税の金額は、物件の売却価格に応じて変わります。例えば、1,000万円を超え5,000万円以下の金額で売買契約をする場合の印紙税は1万円です。5,000万円を超え1億円以下で売買契約をする場合は3万円かかります。
8-4 .登録免許税
家を売却するには住宅ローンを完済して抵当権を抹消する手続きを行う必要があります。この抵当権を抹消するための登記手続きを行う際に登録免許税がかかります。
登録免許税は、不動産1物件につき1,000円です。例えば、マンションの場合は、建物の部分とマンションの敷地の部分とで不動産2物件とカウントし、2,000円になります。
なお、抵当権抹消の手続きを司法書士に依頼する場合、司法書士への報酬は1万5,000円前後が相場です。
8-5 .譲渡所得税
家を売却して売却利益が出た場合には、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、利益に対して課税される所得税と住民税のことです。詳しい内容を以下で解説します。
8-5-1 .家の所有期間が「5年以下」か「5年超」かで税率が異なる
家を売却して売却益が出ると、売却益に譲渡所得税がかかりますが、税率は家の所有期間によって異なります。
家の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得税が、所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得税が課せられ、それぞれの課税所得にかかる税率は下記のとおりです。
- 短期譲渡所得税の税率:所得税30%、住民税9%
- 長期譲渡所得税の税率:所得税15%、住民税5%
所有期間5年を境に税率が大きく異なります。
8-5-2 .売却益が発生しても3,000万円の特別控除を受けられる
譲渡所得税については、特例があります。
居住用の住宅を売るときは、所有期間の長さに関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができます。このため、住宅の売却益が3,000万円以下の場合は、課税額から控除額を引くとゼロとなるため、譲渡所得税を支払う必要はありません。
9 .離婚前後で家を売る最適なタイミングは?
家を売却する場合、売却が離婚前なのか後なのかによって、発生する費用が異なる場合があります。どのタイミングで売却したほうがよいかは状況によって異なるため、状況ごとに最適な売却のタイミングについて解説します。
9-1 .離婚前の売却は贈与税の対象となる
離婚前の売却は贈与税の対象となる点に注意が必要です。
贈与税とは、贈与により無償で財産を譲り受けたときにかかる税金です。仮に先の離婚が決定していたとしても、離婚前にマンションを売却して売却代金の半分を配偶者に与えると、それは贈与とみなされます。そのため、与えた代金から基礎控除の110万円を引いた金額に贈与税がかかります。
なお、離婚前の贈与については、配偶者控除の特例があり、離婚前でも下記の適用要件を満たせば、例外的に贈与税は2,000万円まで非課税となります。
- 婚姻期間が20年以上である
- 居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること
- 贈与の翌年の3月15日までに不動産に居住し引き続き居住する見込みであること
9-2 .離婚前に家を売却するのがいいケース
離婚前に家を売却して分配する場合には贈与税が課税される可能性があることをお伝えしました。次に、贈与税がかかる可能性があるものの、離婚前に家を売却したほうがいいケースについて紹介します。
9-2-1 .離婚後に元配偶者とのやり取りをしたくない
離婚後に元配偶者とのやり取りをしたくない場合は、離婚前に家を売却するほうがいいでしょう。
家の名義が配偶者名義や共有名義となっている場合、家を売却するには名義人の同意が必要です。離婚後に売却するときに自分の名義だけでない場合は、元配偶者と何度も連絡を取り合わなければならなくなります。
離婚後に元配偶者とのやり取りをできるだけ控えたい場合は、離婚前に売却するのが得策といえます。
ただし、通常の不動産仲介で住宅を売却する場合は、売却完了までに平均して3〜6ヶ月の期間が必要です。売却完了まで離婚を待てる場合には、離婚前の売却がよいといえます。
9-2-2 .住宅ローンの滞納などのトラブルを避けたい
住宅ローンの滞納などのトラブルを避けたい場合も、離婚前に家を売却するほうがいいといえます。
例えば家を売却せずに妻と子が住み続け、夫が住宅ローンを支払い続けるような場合、夫の気分や状況次第ではローンの返済が滞ることもあります。ローンの返済が滞ると、住宅を差し押さえられることがあります。また、妻が連帯保証人になっている場合などは、妻に一括返済を迫られる場合もあります。
こうしたトラブルを避けるためには、離婚前に家と住宅ローンを手放しておくのがよいでしょう。
9-2-3 .離婚後の生活資金を確保したい
離婚後の生活資金を確保したい場合も、離婚前に家を売却することがおすすめです。
専業主婦(主夫)で離婚する際に、貯金などの貯えがなくて、離婚を躊躇してしまうケースも少なくありません。離婚前にマンションを売却することで現金を手に入れることができれば、離婚後の生活資金にあてることができます。
マンションは高額のため、売却時はまとまった資金を手に入れることができます。収入のない専業主婦・専業主夫でも離婚後の生活にゆとりを持たせることができます。
9-3 .離婚後に家を売却するのがいいケース
次に、離婚後に家を売却したほうがいいケースについて解説します。具体的には以下の3ケースです。
9-3-1 .できるだけ早く離婚したい
できるだけ早く離婚したい場合は、離婚後に家を売却するのがいいといえます。なぜなら住宅が売却できるまでは、通常3~6ヶ月、場合によってはそれ以上かかるからです。
住宅の売却には時間がかかるため、まずは離婚を成立させてから、売却に取り組むのがよいでしょう。
9-3-2 .できるだけ高く売却したい
住宅をできるだけ高く売却したい場合も、離婚後に家を売却するのがいいといえます。
なぜなら離婚協議と並行して住宅売却の手続きを進めることは大変だからです。離婚協議と離婚の手続きを済ませて、じっくりと家の売却に取り組むことがおすすめです。
家の売却は、売却を急いだり、不動産会社に任せきりにしたりすると、安く売る羽目になってしまうこともあります。住宅を高く売るためにも、離婚後、腰を据えてじっくり売却活動に専念しましょう。
9-3-3 .節税対策したい
先にもお伝えしたとおり、住宅を配偶者や第三者に売却したときの利益には譲渡所得税がかかるものの、最高3,000万円までの特別控除を受けることができます。
特別控除の適用条件は、第三者にマイホームを売却・譲渡することです。離婚前の場合は、配偶者は第三者でないためこの適用条件には当てはまりませんが、離婚後は配偶者は第三者の扱いとなるためこの特別控除を使うことができます。
マイホームを第三者に売った場合の利益が3,000万円以内なら譲渡所得税がかからないなど、節税対策になります。
10 .離婚による家の売却で注意すべきポイント
離婚により、家を売却する際には注意すべきポイントもあります。以下では売却時の注意点について解説します。
10-1 .売却のタイミングに注意する
離婚により家を売却する際にはタイミングに注意しましょう。
家の売却は離婚前に行うか離婚後に行うかによって、それぞれメリットがあります。離婚前の売却は、離婚後に元配偶者と住宅売却の手続きや住宅ローンの返済でもめることもありません。離婚後の売却は、住宅を高く売ったり節税できたりといい条件で物件を売却することができます。
自分のニーズに合わせて売却のタイミングを選びましょう。
10-2 .公正証書で離婚協議書を作成する
離婚において話し合って決めたマンションの売却など財産分与の方法や内容について、「離婚協議書」や「離婚給付契約公正証書」といった公的な文書にして残しておきましょう。
これらの証書は公証役場で公証人立ち合いの元、作成することができます。口約束でも法的拘束力がないわけではありませんが、公的な文書にしておくことで、約束事が守られなかった場合の強制執行などをスムーズに進めることができます。
10-3 .財産分与請求調停を申し立てる
離婚時に財産分与に関する話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所へ調停を申し立てることによって財産分与を求めることができます。
調停では裁判官や調停員が、夫婦の共同財産の総額や、双方の財産に対する貢献度などの事情を把握し、アドバイスを行い、夫婦間の合意を目指します。それでも合意に至らない場合には、審判手続きに入り、裁判官が審判を行います。
11 .離婚後によくあるトラブル
離婚後には思いがけないトラブルが生じてしまうことがあります。離婚後によくあるトラブルについてその内容と対策を紹介するので、あらかじめ注意して対策を取っておくようにしましょう。
11-1 .元配偶者と連絡が取れない
離婚後に、元配偶者と連絡が取れなくなることがあります。
家の名義が元配偶者となっていたり、自分と元配偶者との共有名義となっている場合、家を売却する際には名義人の承諾が必要であるものの、連絡が取れないと確認が取れません。
共通の知人などを通じて連絡先を確認するか、どうしても連絡先が分からなかったり相手が連絡を取ることを拒否したりする場合には弁護士など専門家に対処方法を相談しましょう。
11-2 .ローンの場合の残債の支払いが止まる
妻子が元の住宅に残って住み続けて、夫が住宅ローンを支払い続けるケースが少なくありません。この場合、自分の住み家でもない住宅のローンを支払うことに対して夫のモチベーションが低下し、支払いが止まってしまうこともあります。
ローンの返済が滞ると、住宅を競売にかけるために差し押さえをされたり、妻がローンの連帯保証人になっている場合には妻に一括返済を迫られたりすることがあります。
住宅ローンについては、離婚時に完済するか、離婚後は住む人が支払うように財産分与で調整するなどの対策が必要です。
11-3 .住んでいる家を勝手に売却されてしまう
家の名義がどちらか一方のみの単独名義の場合、名義人の意思だけで家を売却することができます。居住者の意思を確認する必要がないため、名義人である配偶者が勝手に住宅を売却してしまうことがあります。
勝手に売却されることを防ぐには、名義人でないほうの配偶者が住宅の権利証を預かっておくか、家を勝手に売却しないという約束をして証書などの書面にしておくようにしましょう。
11-4 .財産分与の期限を過ぎてしまう
財産分与の話し合いがまとまらない場合には調停が利用できるとお伝えしましたが、財産分与請求の調停は離婚時から2年以内でないと申し立てを行うことができません。
財産分与の話ができないまま2年をすぎてしまうと調停の手段も取れなくなるため、離婚時から2年以内に話し合いの決着をつけたり、調停を申し立てたりするなどの対処をするようにしましょう。
12 .離婚して家の売却を検討するなら資産価値の把握から
離婚による財産分与において、家を売却すべきかどうか解説しました。
財産分与をするときは、下記の理由から家を売却することがおすすめです。
- 心機一転して新しい生活を送ることができる
- 公平に財産分与できる
- 住宅ローンの返済のトラブルを回避できる
- 離婚後の生活資金にゆとりが出る
家を高く売りたい場合には、不動産会社の買取を利用するよりも、不動産仲介を利用することがおすすめです。
仲介を依頼する不動産会社を選ぶ際には、不動産査定一括サイトの利用が便利です。一度に複数の不動産会社から住宅の査定額を取り寄せて見比べることができます。
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