不動産を売却することで得た譲渡所得には、他の所得とは分離して計算する譲渡所得税が課されます。正確には課税方式が他の所得とは区分された所得税、復興特別所得税、住民税が課税されます。
不動産売却時には、どのくらいの利益が得られるのか正確に知るために、譲渡所得税を前もって計算しておくことをおすすめします。
しかし、譲渡所得税の仕組みを詳しく把握している方は少ないのではないでしょうか。また、特例を利用することで税金を控除できる場合もあるため、条件を満たしているかどうかの確認も重要です。
そこで本記事では譲渡所得税の計算方法や特例について詳しく解説します。
1.不動産売却には譲渡所得税がかかります!その詳細とは
不動産の売却をして譲渡所得がある場合には譲渡所得税が発生します。譲渡所得税を算出するには、まず譲渡所得の計算をする必要があります。まずは譲渡所得の計算方法について確認していきましょう。
1-1.譲渡所得税はまず譲渡所得から計算する
譲渡所得は不動産の売却金額(収入金額)から不動産の取得費と譲渡費用を差し引くことで算出します。
さらに特別控除を利用できる場合には、特別控除を差し引くことで課税される譲渡所得(課税譲渡所得)が算出されます。
計算式
・譲渡所得=不動産の収入金額-(取得費+譲渡費用)
・課税譲渡所得=譲渡所得-(特別控除)
不動産の収入金額とは、不動産を売却したことで得られた金額を指しています。ここには不動産の譲渡代金のほか、固定資産税精算金を受け取った場合の収入も含まれます。
では、取得費と譲渡費用とは何を意味しているのか、解説していきます。
1-2.譲渡所得を計算するために必要な取得費・譲渡費用とは
前述した計算式で必要な不動産の取得費と譲渡費用とは具体的に何を指すのでしょうか。それぞれについて解説します。
取得費
取得費とは不動産を購入した際にかかった費用のことで、もっとも大きな費用は不動産の購入代金です。
しかし、不動産の購入時に支払うのは購入代金だけではありません。不動産会社に支払う仲介手数料や購入時にかかった登録免許税などの税金のほか、土地の測量や整地・建物の撤去費・設備費・改良費なども含まれます。そして、これらをすべて含めた金額が「取得費」とされています。
なお、不動産の購入代金は土地と建物で計算方法が異なるため、分けて計算する必要があります。土地は購入代金をそのまま取得費として計上できますが、建物は購入代金から減価償却費相当額を差し引いた金額で計上しなければなりません。
非事業用建物の減価償却費相当額=建物購入価額×0.9×償却率×経過年数
※業務用の減価償却費相当額は、毎年の減価償却費の合計額になります。
譲渡費用
一方、譲渡費用とは不動産を売却した際にかかった費用のことです。譲渡費用では、不動産会社に支払う仲介手数料、売却にかかった税金などが主な内容です。そのほか、売却するために直接かかった費用があれば含まれます。
具体的には以下のような項目が該当します。
- 賃借人を立ち退かせた場合の立退料
- 土地を売るための建物を取り壊した場合の費用や損失額
- 売買契約締結後、より良い条件で売却するために最初の契約者に支払った違約金
- 借地権を売却する時、地主の承諾をもらうために支払った名義書き換え料など
- 売主が負担した印紙税
- 土地や建物を売却するために発生した仲介手数料など
譲渡費用に含まれる項目はやや分かりにくいため、以下、国税庁のホームページに記載されている内容をよく確認するようにしましょう。
参照元: 国税庁HP:譲渡費用となるもの
1-3.譲渡所得税の税額の計算方法
譲渡所得税の税額は、これまでに算出した課税譲渡所得に税率を乗ずることで求めることができます。計算式としては以下になります。
計算式
・譲渡所得税の税額=課税譲渡所得×税率(所得税・復興特別所得税・住民税)
税率には「所得税」「復興特別所得税」「住民税」の3種類があり、対象となる不動産の所有期間によって適用される税率が異なります。次の章で不動産の所有期間によってどのように税率が変動するか解説します。
2.譲渡所得税率は不動産所有期間によって異なる
譲渡所得の税率は、売却した不動産の所有期間が5年を超えていたかどうかによって変わってきます。5年以下の所有期間で売却する場合は短期譲渡所得、5年超で売却する場合は長期譲渡所得として扱われます。
ただし、所有期間の5年の判定は不動産の購入日から売却日までの期間で計算するのではなく、売却した日の属する年の1月1日で計算されるので注意しましょう。
例えば、2016年6月に購入して2021年10月に売却した場合、所有期間は5年以下になりますので短期譲渡所得の税率が適用されます。
以下に2種類の違いや計算方法を解説します。
2-1.短期譲渡所得の場合
はじめに短期譲渡所得の場合の税率を解説します。
短期譲渡所得とは、不動産の所有期間が5年以下の場合に用いられ、税率は39.63%です。短期譲渡所得の計算式は以下の通りです。
・課税譲渡所得×39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
※復興特別所得税は、所得税に税率2.1%を乗じた値となります。
4割近い税金が課せられることになるため、不動産の金額によっては、かなりの税金を納めなければならないケースもあるでしょう。
しかし、一般的に築年数が浅い不動産のほうが高く売れるケースが多く、後述する特例を利用して税金を控除する方法もあるので、決してデメリットばかりではありません。
2-2.長期譲渡所得の場合
次に長期譲渡所得の場合を見ていきましょう。こちらは不動産の所有期間が5年超の場合に用いられ、税率は20.315%です。
長期譲渡所得の計算式は以下の通りです。
・譲渡所得×20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
したがって、短期譲渡所得と比較するとかなり税金を減額できるメリットがあることが分かります。
しかし、前述したように不動産は築年数が浅いほうが高く売れる傾向にあるので、長期譲渡にする目的で売却日を延ばすと、不動産の売却価格が下がり、却って損をしてしまう可能性もあります。
そのため、所有期間5年前後での売却を検討している方は、売却予定の不動産の価格相場や利用できる特例などを比較しながら、どちらが得になりそうか慎重に見極める必要があるでしょう。
3.譲渡所得税以外にかかる税金は?
譲渡所得税の計算方法について解説してきましたが、不動産の売却時に発生する税金などの費用は他にもあります。
不動産売却時にかかる費用には、主に以下の5種類です。
- 印紙税
- 登録免許税
- 司法書士などの報酬
- 仲介手数料
- 消費税
印紙税とは売買契約書の締結時にかかる税金のことです。
収入印紙を契約書に貼り付けて消印をすることで納付をします。税額は不動産の売却価格によって以下のように決められています。
売却価格 | 税額 |
---|---|
100万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 |
1億円超5億円以下 | 30,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 60,000円 |
※参照元:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」
※令和4年3月31日までの軽減措置が適用された税額
登録免許税は不動産売却時にローンを完済して、抵当権の抹消を行う場合に発生します。
金額は不動産一つあたり1,000円と定められており、さほど大きな費用ではありません。
仲介手数料は売買の仲介を担当した不動産会社へ支払う手数料で、金額は下記のように定められています。
取引物件価格(税別) | 仲介手数料の上限 |
---|---|
400万円超 | 取引物件価格(税別)×3%+6万円+消費税 |
200~400万円以下 | 取引物件価格(税別)×4%+2万円+消費税 |
200万円以下 | 取引物件価格(税別)×5%+消費税 |
参照元:国土交通省「宅地建物取引業法関係」
仲介手数料は取引価格にかかわらず、消費税が加算される点に注意しましょう。
4.【必読】不動産売却時の譲渡所得税で適用される特例5選
不動産の売却時にはさまざまな税制上の特例が利用できます。特例を利用することができれば大きく節税できる場合があるため、売り主にとって大きなメリットでしょう。
一方、特例の内容を理解しておかないと、本来、控除できる条件だったにもかかわらず、特例が使えなくなってしまって、譲渡所得税が減額されずに損をしてしまう可能性があります。
譲渡所得税で適用を受けることができる特例を5つ解説しますので、適用の要件や控除額などをよく理解しておきましょう。
4-1.不動産の所有期間が10年を超えた場合
売却する不動産の所有期間が10年を超えていた場合に利用できる特例として「10年超所有軽減税率の特例」があります。この特例を利用すれば、譲渡所得にかかる税率が低くなります。ただし、利用できるのは居住用のみであることに注意しましょう。
具体的にはおもに以下の要件を満たす必要があります。
- 自己の居住用の不動産である
- 売却した年の1月1日時点での所有期間が10年超えている
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却した年の前年及び前々年にこの特例を受けていない
- 親族間の売買でない
- 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていない
なお、税率は6,000万円以下と6,000万円超の部分で下記のとおり異なります。
売却価格 | 税率 |
---|---|
6,000万円以下の部分 | 14.21%(所得税10.21%・住民税4%) |
6,000万円超の部分 | 20.315%(所得税15.315%・住民税5%) |
すなわち、6,000万円を超える部分は特例が適用されず、通常の長期譲渡所得の税率である20.315%が課税されることになります。
4-2.マイホームの買い換え特例
マイホームの買い換え特例とは、マイホームを買い換える際に利用できる特例のことです。この特例は、2021年12月31日※までにマイホームを売却し、一定期間内に新たにマイホームを購入すると、譲渡所得にかかる税金を、新たに購入したマイホームを売却する時まで繰り越すことができるという制度です。
※居住用財産の買換えに関する特例は令和3年12月31日で期限が終了しましたが、「令和4年度税制改正の大綱」にて2年間延長することが閣議決定されました。ただし、まだ施行されていないため、注意が必要です。
※「令和4年度税制改正の大綱 」
ただし、この特例はあくまで課税の繰り延べなので、譲渡所得が免除されるわけではない点に注意してください。
つまり、この特例を利用した後に、将来もう一度売却をする時は、前回から繰り延べられた税金相当額と併せて課税を受けることになるので、高額な納税につながる可能性がある点も留意しておきましょう。
本特例を利用するには、おもに以下の要件を満たす必要があります。
- 自己の居住用の不動産である
- 譲渡価格が1億円以下
- 売却した年、その前年および前々年にマイホームを売却した場合の3,000万円の特別控除の特例その他一定の特例を利用していないこと
- 10年以上の期間、居住用として住んでいた物件で、かつ、売却した年の1月1日において売却した家屋と土地の所有期間が共に10年を超えていること
- 住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却すること
- マイホームを売却した年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換え、かつ、一定の期限までに買い換えたマイホームに住むこと
繰り延べ可能な金額は、新たに購入するマイホームの価格によって異なります。
新たなマイホームの価格が、買い換え前のマイホームと同額以上の場合、譲渡益を全額繰り延べることが可能です。しかし、同額未満の場合は買い換えたマイホームの購入金額までが繰り延べできる上限となります。
4-3.マイホーム売却時の特別控除
マイホーム売却時の特別控除とは、マイホームを売却時に発生した譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。
控除を受けるためのおもな要件は、以下の通りです。
- 自己の居住用の不動産である
- 配偶者、直系血族、同族会社ではない
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する
- 解体して売却する場合は土地の売却契約締結が解体から1年以内で、その土地を賃貸していない
- 売った年の前年及び前々年にこの特例やその他一定の特例の適用を受けていない
- 売却した年、その前年及び前々年にマイホームの買換えの特例などの適用を受けていない
たとえば譲渡所得が5,000万円だった場合、3,000万円が控除され、残りの2,000万円に対して課税されます。ここまで紹介してきた特例と違い、保有期間に関する制限がないため、一般的なマイホームの売却であれば多くのケースで利用できるでしょう。
さらに、最初に紹介した「10年超所有軽減税率の特例」と併用することも可能です。
前述した例であれば、課税される部分である残りの2,000万円に「10年超所有軽減税率の特例」を適用し、税率を14.21%まで下げられます。なお、売却時に居住していない家だったとしても、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までであれば、本控除の適用を受けることができます。
4-4.不動産を相続した場合
不動産を相続し3年以内にその不動産を売却した場合、取得費加算特例を利用できることがあります。この特例を利用すれば、不動産を相続した際に納めた相続税のうち、一定金額を不動産の取得費に加算できるため、税金を減額することが可能となります。
おもな要件は以下の通りです。
- 売却した不動産が相続または遺贈によって取得したものである
- その財産を取得した人に相続税が課税されている
- 相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却すること
所有期間は関係ないので、確認はさほど難しくないでしょう。相続した不動産を売却したい場合、これらの条件に該当するかどうか、チェックするようにしてください。
4-5.相続した居住用の不動産(空き家)を売却した場合
被相続人の居住用の不動産を相続または遺贈により取得して売却した場合、3,000万円の特別控除の特例を利用できるケースがあります。この特例を利用するためには、おもに以下の要件を満たす必要があります。
- 相続した不動産を2023年12月31日までに売却すること
- 1981年5月31日以前に建築された不動産であること
- 区分所有建物登記(マンション等)の建物ではない
- 相続開始の直前において被相続人が一人で居住していたものであること
- 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付の用または居住の用に供されていたことがないこと
- 土地の売却金額が1億円以下であること
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
「1981年5月31日以前に建築された」か「区分所有建物登記(マンション等)の建物ではない」の2点が重要なポイントとなります。
1981年5月31日以前の建築が条件となった背景としては、倒壊の恐れが高い空き家を減らしたいという国の意向が関係しています。1981年5月31日以前に建築確認申請を行った建物は「旧耐震基準」と呼ばれており、現在の耐震基準(新耐震基準)を満たしていません。
そのため、倒壊の可能性が高いと考えられており、この年月日で線引きしています。
5.不動産売却した後は必ず確定申告しよう
譲渡所得税の計算方法や特例の解説をしてきました。
不動産の売却価格によっては、譲渡所得税が非常に大きな金額になるケースもあるので、特例を利用できるかどうかの確認はしっかり行うようにしましょう。
また、不動産売却をして利益が出た場合は、確定申告を必ず行わなければなりません。確定申告は売却をした翌年の2月16日から3月15日の間に行う必要があるので、遅れることがないように注意してください。
特に、初めて確定申告を行う方は、手続きが煩雑で戸惑うことが予想されますので、申請に必要な書類や手続き方法を早めに確認することが大切です。
書類に不備があると、後で問い合わせを受けたり修正申告を求められたりする可能性があるので、余裕をもって準備することをお勧めします。
不安であれば、不動産の売却を依頼した信頼できる不動産会社に一度相談するとよいでしょう。
また信頼できる不動産会社をお探しであればおうちクラベルがおすすめです。無料で一括査定が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
Q.取得費と譲渡費用って何ですか?
A.取得費とは不動産を購入した際にかかった費用に一定の調整を加えた金額のことです。一方、譲渡費用とは不動産を売却した際にかかった費用のことを指します。
Q.譲渡所得税以外にかかる税金はなにがありますか?
A.譲渡所得税とは、所得税、復興特別所得税、住民税の総称で、そのほかに印紙税/登録免許税/仲介手数料/消費税の4種類があります。