親族や配偶者間で土地の贈与を行った場合に、土地を受け取った側に課される税金を贈与税といいます。
当事者間では贈与のつもりではなくても、結果的に贈与しているとみなされる場合には贈与税の納税義務が発生することがあります。
たとえば不動産の購入費用を20%払って、所有権持分を50%持ったとすると、所有権持分の30%は無償で貰い受けたとみなされ、その所有権持分30%に対して贈与税がかかるのです。
この記事では、贈与税の特例や控除の制度を分かりやすく解説しています。
ただし、優遇税制には控除を受けられる期間に限りがある時限措置であることが多いため、優遇を受けられる時期を逃さないように、期間もあわせて覚えておきましょう。
贈与税とは?
生存する個人から財産を引き継ぐことを贈与といいます。贈与は贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産を受け取る人)の合意だけで成立します。
贈与税の申告時などは贈与の事実を証明する必要があるため、将来のトラブルを招かないためにも、書面で取り交わし、贈与の事実を残しておくのが一般的で安心です。
贈与によって受け取った財産は贈与税の課税対象になります。ちなみに、法人から財産を引き継いだ場合に課税されるのは、贈与税ではなく所得税です。
また、贈与財産が土地や建物の場合には、贈与税と地方税の不動産取得税がかかります。
贈与税の2種類の課税方法 その違いとは
贈与財産への課税方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」とがあり、受贈者は贈与者ごとに判断して決めます。それぞれ別の課税方法を選択することもできます。
以下では、それぞれの制度の説明や計算方法のシミュレーション、および注意点を解説していきます。
暦年課税制度とは?
「暦年課税」は1月1日~12月31日までの1年間に受け取った財産に対して課税します。
110万円の基礎控除があり、贈与財産から110万円を差し引いた残額に対して課税されます。
もしも受け取った財産が110万円に満たない場合には贈与税は課税されません。
暦年課税制度の計算方法
贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の受贈者が、直系尊属(父母や祖父母など)から財産を貰い受けていた場合の贈与税額の計算方法は、贈与税の速算表【特例贈与財産用】表に当てはめて計算してください。
贈与税の速算表【特例贈与財産用】
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
特例税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
引用:国税局
なお、贈与者が直系尊属(父母や祖父母など)ではない人からの贈与なら、上記ではなく下記の贈与税の速算表【一般贈与財産用】表に当てはめて計算してください。
贈与税の速算表【一般贈与財産用】
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 43,000万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一般税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
引用:国税局
計算シミュレーション
(1)直系尊属(父母や祖父母など)から贈与によって1,000万円の財産を取得した場合
→【特例贈与財産用】の速算表を使う
1,000万円-110万円(基礎控除)=890万円(基礎控除後の課税価格)
890万円×30%(特例税率)-90万円(控除額)=177万円(税額)
(2)直系尊属以外の人から贈与によって1,000万円の財産を取得した場合
→【一般贈与財産用】の速算表を使う
1,000万円-110万円(基礎控除)=890万円(基礎控除後の課税価格)
890万円×40%(一般税率)-125万円(控除額)=231万円(税額)
暦年課税制度の注意点
(1)連年贈与とみなされる
110万円以下の非課税枠を利用して、数年にわたって計画的に財産を受け渡していくことが、贈与者と受贈者の間で予め約束されていたかような贈与の方法。「贈与税を計画的に免れた」と悪意に取られてしまうと、贈与税を課税されてしまうことがあります。
たとえば、100万円を10回、10年間にわたって合計1,000万円を非課税だと思って贈与しても、1,000万円を分割で贈与すると始めの時点で約束したのだから、初年度に1,000万円の贈与が決定されたものとして、1,000万円に対して贈与税がかかることがあるのです。
(2)相続開始前3年以内の贈与
受贈者が相続人で、贈与者である被相続人が亡くなった場合に、相続が開始する前の3年間になされた贈与財産は相続財産とみなされ、相続税の課税対象になります。
相続時精算課税制度とは?
「相続時精算課税」は特別控除額や一定税率で贈与税を計算しておきますが、生前贈与の時点では贈与税を支払わず、贈与者が亡くなったときにその分が相続財産に組み入れられてはじめて、相続税として精算して支払う制度です。
適用できる要件は、贈与者が60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から20歳以上の子や孫への贈与に限られます。
相続時精算課税制度の計算方法
贈与財産から特別控除額2,500万円を引いて、残額に20%税率を掛ける。
贈与財産が3,000万円とした場合は下記のようになります。
3,000万円(贈与財産)-2,500万円(特別控除額)=500万円(贈与税課税金額)
500万円(贈与税課税金額)×20%(贈与税率)=100万円(贈与税額)
※1回目の贈与で2,000万円、2回目の贈与で2,000万円の贈与があった場合は、各回は特別控除額2,500万円以内で非課税のようにも見えます。しかし、この場合は2回目の贈与財産2,000万円から1回目で引ききれずに繰越した特別控除額500万円を控除した、1,500万円に対して贈与税20%が課税されます。つまり一人からの累計の贈与財産で判断され計算されるのです。
相続時精算課税制度の注意点
贈与税の申告期間内に「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出して制度の活用を税務署に示すことになりますが、一度「相続時精算課税」を選択すると、そのあとに「暦年課税」のほうがお得だと分かったとしても「暦年課税」に変えることはできません。
相続前に生前贈与する意味と効果とは?
税率だけをみると相続税のほうが生前贈与より納税額が安く済みます。しかし、関係者が生きているうちに、家の購入や学資などの使いたいタイミングで利用できる生前贈与のほうが、生きたお金の使い方としては有効です。
そのため、生前に贈与してもその時点では大きな納税をしなくていいように、次の世代へお金を有効に使えるような制度が創設されました。
不動産を生前贈与するメリット
生前贈与の3つのメリットを紹介します。
メリット(1):財産を渡す相手を選べる
相続は相続人に対して遺言などで、財産の指定や渡す相手の指定はできますが、それでも遺留分の請求権は残ります。遺留分とは、一定の相続人に対して最低限保障される遺産取得分のことです。また遺産分割協議が整わず係争に発展するケースも少なくありません。
そこで生前にそれらの問題を事前に指定し解決しておける生前贈与は、被相続人の死後に残る心配を解消したり、相続人らの住宅購入や教育費だったり、まさにお金が必要な時期にあわせて財産を渡せるという意味でも大変効果の高い方法です。
メリット(2):贈与税の配偶者控除
結婚20年以上の夫婦で自宅の贈与をした場合には、贈与税の配偶者控除2,000万円が使えます。
さらにこの配偶者控除とあわせて暦年課税制度の非課税枠110万円も使えるため、2,110万円までは生前贈与税を非課税にすることができるのです。もしもご自宅の評価額が2,110万円までなら、非課税でご自宅を配偶者に生前贈与ができるということです。
また、贈与者が亡くなって相続が開始する前の3年間になされた贈与財産は相続財産とみなされるというルールが、この贈与税の配偶者控除の特例を使用した場合には対象外になるのも、大きなメリットのひとつです。
ただし、非課税枠に収まる贈与額であっても贈与税の申告手続きは必要なため、確定申告の手続きを忘れないよう注意してください。
メリット(3):不動産の収益も渡せる
生前贈与する財産が事業用不動産で毎月収益が上がるものだったとしたら、その不動産を贈与することで、この先その不動産から発生する収益を渡すことができます。
贈与税はあくまでその不動産の価格に対して課税されるだけで、将来発生する収益に対しては課税されることはありません。受贈者へ将来の経済基盤を作って渡してあげられるのはお互いにとってとても満足度の高い方法といえます。
ただし、受贈者はその事業用不動産から発生する不動産収入に対する所得税の負担はしなくてはなりません。
不動産を生前贈与するデメリット
生前贈与のデメリットについても解説していきます。
デメリット(1):贈与税は相続税よりも税率が高い
贈与税の課税料率は、相続税の課税料率よりも高い設定です。
贈与税の課税料率は前述の速算表から、3,000万円以下で45~50%、相続税は15%です。
【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
引用:国税局
贈与税は貰った財産に対して課税され、相続税はすべての相続財産に対して課税と、課税する対象の範囲が違います。
また、基準になる課税対象額も、贈与税は実売価格と、相続税は路線価とは異なります。課税料率だけで単純に比較して税額が高いか安いかを安易に判断することはできません。ちなみに路線価は実売価格(公示価格)の80%程度といわれています。
とはいえ、課税料率の差はあまりに大きいため、贈与税の税率は高いといわざるを得ません。
デメリット(2):登記費用が相続登記よりも高額
贈与財産が不動産の場合には、受贈者には不動産取得税(固定資産税評価額の3%)がかかります。またその不動産の所有権を自身に移転する登記申請時には登録免許税(固定資産税評価額の2%)がかかります。
仮に不動産の固定資産税評価額が2,000万円とした場合の、贈与と相続に分けて紹介します。
贈与
・不動産取得税=2,000万円×3%=60万円
・登録免許税=2,000万円×2%=40万円
対して相続の場合には、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)
相続
・不動産取得税=非課税
・登録免許税=2,000万円×0.4%=8万円
明らかに贈与のほうが、諸費用が高額になることが分かるでしょう。
デメリット(3):相続が開始する前の3年間になされた贈与財産は相続財産とみなされる
生前の有効な資産活用と節税のために行った生前贈与も、思いがけず相続が始まってしまうと3年間遡って相続財産に組み込まれてしまいます。
デメリット(4):小規模宅地等の特例が使えないことがある
相続時精算課税制度を使って2,500万円の控除を使っていた場合には、相続財産から80%も減額してくれる小規模宅地等の特例が使えないことがあります。そのため、節税しようとして行った生前贈与が、結果的に相続時のお得な控除制度を使えなくするケースがあるでしょう。
土地贈与税の節税対策にはどんなものがあるのか
贈与税の節税対策でよく使われるものをご紹介します。
(1)相続時精算課税の特別控除
対象者(贈与があった年の1月1日時点の年齢で判定する)
贈与者:60歳以上の直系尊属(父母や祖父母など)
受贈者:20歳以上かつ贈与者の直系卑属(子や孫など)の推定相続人および孫
受贈者は「相続時精算課税」を使うと決めた贈与者ごとに、1月1日~12月31日までの1年間に贈与された財産の合計価格から特別控除2,500万円を控除した残りの額に20%をかけて算出し、その贈与者ごとの合計額が贈与税の総額になります。
(2)住宅取得等資金の非課税
平成27年1月1日~令和3年12月31日までの間に直系尊属(父母や祖父母など)から住宅取得資金として、金銭などの贈与を受けたときに、以下の1もしくは2の表に記載された非課税限度額までの金額については、贈与税は非課税です。
※平成26年より前に住宅取得資金の非課税の適用を既に受けられた方は、この非課税の適用は受けられません。
※この特例と一緒に(特定増改築等)住宅借入金等特別控除を適用した方は、住宅取得金額から、この贈与の特例の適用金額を差し引いた金額をもとに控除額を計算してください。
要件の補足
下表2について、住宅用家屋の新築・取得・増改築などの契約を平成31年4月1日~令和3年12月31日までに締結している場合に限り、非課税限度額が適用されます。
また、住宅用家屋の新築対価や費用の消費税率が10%の場合に限られます。
1.2以外の場合の非課税限度額
住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 | 住宅用の家屋の種類 | |
---|---|---|
省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 | |
平成28年1月1日から令和2年3月31日まで | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日から令和3年12月31日まで | 1,000万円 | 500万円 |
2.消費税等の税率が10%である場合の非課税限度額
住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 | 住宅用の家屋の種類 | |
---|---|---|
省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 | |
令和2年4月1日から令和3年12月31日まで | 1,500万円 | 1,000万円 |
引用:国税庁
非課税適用者要件
- 贈与があった年の1月1日において20歳以上
- 合計所得金額が2,000万円以下(家屋の床面積が40平米以上で50平米未満なら所得は1,000万円以下)
- 贈与を受けた者は贈与当時に贈与者の子か孫であること
- 贈与を受けた年の次の3月15日までに、贈与された金銭の全額を新築・取得・増改築に使うこと
- 贈与を受けた年の次の3月15日までに、その新しい住宅に引っ越している、もしくは近々居住することが確実になっていること
贈与の要件
- 住宅の新築物件(土地含む)購入のために金銭での贈与
- 建売住宅もしくは20年以内(耐火構造のマンションは築25年以内)の中古住宅(土地含む)や一定の基準に適合する中古住宅等(土地含む)の購入のための金銭での贈与
- 住宅の床面積(増改築の場合には増改築後の床面積)が40平米以上で240平米以下である
- 居住用の住宅の増改築で費用が100万円以上かかるものに充てるための金銭での贈与
- 20年以内(耐火構造のマンションは築25年以内)の中古住宅ではない場合でも、耐震技術などの適合証明があれば非課税になるケースがある
非課税限度額
- 非課税限度額は新築住宅用家屋の種類に応じて、受贈者が特例を受けようとする家屋の新築に関する契約の締結日によって異なる
- 既にこの特例を使って非課税になったことがある場合には、その金額を引いた残額が非課税限度額である
- ただし、上表2の非課税限度額は平成31年3月31日までに既にこの特例を受け非課税になっていても、その金額を差し引く必要はない
(3)教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与
教育資金
30歳未満の孫などが教育資金に充てるために、平成25年4月1日から令和5年3月31日までの間に直系尊属から金銭などの贈与や信託受益権を受けた場合に、その金銭の贈与や信託受益権のうちの1,500万円までが非課税になります。
ただし孫などが信託受益権を得た年の前年の所得が1,000万円を超える場合には非課税にはなりません。
結婚・子育て資金
20歳以上50歳未満の子が結婚や子育ての資金として、平成27年4月1日~令和5年3月31日までに金銭の贈与や信託受益権を受けたときに、その金銭の贈与や信託受益権のうちの1,000万円までが非課税になります。
(4)居住用不動産贈与の配偶者控除
結婚20年以上の夫婦の間で居住用不動産もしくは居住用不動産取得資金の贈与があれば、基礎控除110万円と2,000万円までの配偶者控除、合計2,110万円まで控除が受けられます。
土地の贈与税申告にあたって必要な書類とは?
贈与税の控除を受ける場合には、それぞれの要件に応じた書類を添えて申告してください。
(1)相続時精算課税の特別控除の場合
「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添えて税務署へ提出します。
加えて、贈与者と受贈者の関係を証明するための戸籍謄本(または抄本)なども必要です。
(2)教育資金の一括贈与
- 教育資金支払いの領収書などを金融機関等へ提出
- 「教育資金非課税申告書」を金融機関等から所轄税務署長へ提出
- 教育資金管理契約が終了する理由がある場合、途中で贈与者が死亡した場合は相続税、孫などが30歳に達した場合には贈与税の申告が要るケースがある
(3)結婚・子育て資金の一括贈与
- 「結婚・子育て資金非課税申告書」を金融機関等から所轄税務署長に提出
- 結婚・子育て資金の支払いに充てた領収書などを金融機関等へ提出
- 結婚・子育て資金管理契約が終了する場合、途中で贈与者が死亡した場合は相続税、子が50歳に達して結婚・子育て資金管理契約が終了した場合には、贈与税の申告が要るケースがある
(4)居住用不動産贈与の配偶者控除
- 贈与を受けてから10日経ったあとに作成された戸籍謄本(抄本)
- 贈与を受けてから10日経ったあとに作成された戸籍の附票のコピー
- 居住用不動産の登記簿謄本など受贈者が不動産を取得したことが分かるもの
- 固定資産税評価証明書
贈与税について理解し、将来を見据えた対策をしよう
知っておくだけで節税になることがたくさんあり、そのなかでも併用できるものとできないものがあります。
また、適用要件や申告期日が限られるものなどもあり、期日の確認は重要です。
生前贈与は、家の購入・教育・結婚・子育てなど、必要なときに非課税で親などから資金調達ができる効果的な方法です。ぜひ活用しましょう。
最後に、相続ではなく売却を検討している方におすすめの一括査定サイトをご紹介します。
ヤフーとソニーグループのSREホールディングスが共同運営している「おうちクラベル」は、大手ならではの安心感があるため、まずは査定依頼から始めてみてはいかがでしょうか?
Q.贈与税とはなんですか?
A. 贈与税とは、個人から土地や建物などの財産を譲り受けた際に課税されるものです
Q.贈与は贈る人を選べるんですか?
A. もちろん指定でき、贈る人と受け取る人の意思表示だけで成立します。
ただし、贈与契約書など書面を作って証拠を残すことをおすすめします。
また直系関係でないと受けられない控除があるため、誰に贈るかは注意してください。