インスペクション(住宅診断)は売主・買主それぞれにメリットがあります。これから自宅の売却を検討される方に、基本的な内容やメリット、費用などを解説します。インスペクションの実施の検討にお役立てください。
インスペクションの基礎知識
ここではインスペクションについて、次のような基本的な内容を紹介します。
- インスペクションとは
- 調査では何をみる?
- いつ依頼すべきか
インスペクションは買主側から依頼されることもあるほど、関心の高い事柄です。売主側としては、インスペクションを行ってから売却活動をすることで、中古物件が売れる可能性があがります。インスペクションの実施を検討するために、まずは基本的な内容を押さえておきましょう。
基礎知識1:インスペクションとは
インスペクションとは、住宅の状態を調査することを意味しており、ホームインスペクションなどと呼ばれることもあります。
国土交通省が定めた「既存住宅状況調査技術者講習」を修了した建築士が住宅診断士(インスペクター)として、第三者の立場で客観的な調査を行い、住宅の不具合をみつけた場合は修繕などの的確なアドバイスをしてくれます。
従来は中古物件でインスペクションを行うケースが多いものでした。しかし昨今では新築物件に対しても実施されることが多くなってきています。
住宅にまつわるトラブルを未然に防ぐために、インスペクションを行うことで安心できる面も多くなるでしょう。
基礎知識2:調査では何をみる?
インスペクションでは、建物の柱・壁・屋根といった構造上の重要な箇所や外壁・開口部といった箇所などを中心に調査が行われます。
新築住宅であれば、基礎部分やシーリング、バルコニーなどの完成検査が主に実施されるでしょう。
中古住宅は、雨漏りや付帯設備の不具合や建物の傾きなどがチェックされます。
調査は基本的に目視で行われますが、デジタル水平器などの計測機器を用いたり、打診や動作確認が行われたりもします。気になる部分を事前に伝えておけば、集中的に調査を実施してもらえることから、うまくコミュニケーションをとりながら進めてみましょう。
基礎知識3:いつ依頼すべきか
インスペクションを依頼するタイミングは、物件の状況に応じて異なります。新築住宅と中古住宅のそれぞれでまとめると、物件を購入する場合は以下のようになります。
物件の状況 | 依頼するタイミング | |
新築住宅 | 完成済み | 売買契約の締結前 |
建築途中 | 契約の締結前 | |
建築前 | 契約後に工事が開始してから | |
中古住宅 | 売買契約の締結前 |
一方、住宅を売却する場合は、物件を売り出す前にインスペクションを実施しておくと良いでしょう。インスペクションそのものの所要時間は2~3時間程度で済みますが、依頼を行ってから調査を実施し、報告書を受け取るまでに日数がかかるため、1ヶ月程度は余裕をもって依頼をすることが大切です。
インスペクションするメリットとは
インスペクションを実施するメリットは、売主・買主のそれぞれの立場であります。住宅の売主としてのメリットは、物件の付加価値を高めることができ、より高く売却できる可能性を高めることになるでしょう。
一方、買主としてのメリットはインスペクションの費用を物件の取得費として含められますし、何か不具合があって修繕を行った場合でもその費用は税負担を軽減することにつながります。
また、新築住宅を購入する際は不具合を早期に発見できることで、安心して購入を決められるという利点があります。
それぞれのメリットについて、さらに詳しくみていきましょう。
売主側のメリット:売却不動産の付加価値をあげられる
インスペクションを行うことで、売主としては買主に対してアピールできる材料を得られます。住宅を売る前に不具合をあらかじめ発見できるため、売却後のトラブルが発生することを防げるはずです。
何より、住宅の品質や安全性が保証されているという付加価値を生み出すことができるため、希望する価格に近い金額で売却できる可能性が高まります。インスペクションにかかる費用は数万円程度であることから、費用対効果が高い点が魅力だといえるでしょう。
買主側のメリット:安心して購入に踏み切れる
住宅を購入する側にとっては、インスペクションを実施することで次のようなメリットが得られます。
- 検査結果を購入などの判断材料にできる。
- 何か問題点があっても、補修費用の負担を売主と交渉できる。
- 安心して購入に踏み切れる。
- 一定の要件を満たすことで、瑕疵(かし)担保保険に加入できる可能性がある。
上記のように買主として多くのメリットがあることから、安心して住宅を購入することにつなげられるでしょう。
瑕疵担保保険の加入については、国土交通省が定めたルールによれば、住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者がインスペクションを実施するなど一定の要件が設けられています。瑕疵担保保険への加入を検討する際は、事前に必要な要件を満たせるのかを業者に確認しておきましょう。
瑕疵担保保険に入れれば、住宅ローン控除の適用を受けたり、登録免許税の軽減措置など税制上のメリットを得られたりするため、大きなメリットとなります。
新築時:不具合の予測や発見ができる
住宅を新築するときにインスペクションを実施することで、次のようなメリットを得られます。
- 将来の改修すべき箇所や費用をあらかじめ把握できる。
- プロでしか発見できない住宅の不具合をみつけられる。
将来的に予測される不具合を早期に発見できるだけでなく、建築時の施工不良などもチェックできます。そのため、どの程度の修繕費用がかかるのかを早い段階で調べられます。
物件の引き渡しを受けてからだと、不具合に関する施工会社の責任が曖昧になりがちなため、早めにインスペクションを行うほうが良いでしょう。
インスペクションの費用
インスペクションを行ううえで必要な費用として、以下の2つがあげられます。
- インスペクションの実施に関する費用
- 瑕疵担保保険に加入するための費用
各費用について、具体的にどれくらいかかるのかを紹介します。
インスペクションに関わる費用
インスペクションを行うときにかかる費用は、依頼する会社や物件の種類などによって異なります。目安となる金額としては、新築住宅であれば8万円程度、中古住宅であれば5万円程度を念頭に置いておくと良いでしょう。
新築住宅では、内覧会に出向くときに建築士が同行してくれるプランがあります。初めてマイホームを取得する際は、どのような点に気をつけてチェックをすれば良いか分からない面も多いものです。
上記のようなプランでは、建築士が同行してくれることで細かな部分まで確認してもらえることから、入居後の不安を取り除けます。インスペクションは建物が完成する前の建築中の段階でも実施できるため、気軽に相談をしてみましょう。
中古住宅では、建物の内部や外部を調査してもらえるプランがあります。具体的には、建物の傾きや雨漏り、外壁の状況確認やシロアリ被害の調査などを行ってもらえます。戸建て住宅だけでなく、マンションでも同様の調査プランがあるため、必要に応じて上手に活用してみましょう。
瑕疵担保保険の関わる費用
瑕疵担保保険は、住宅の調査費用や修繕費用、仮住まいにかかる費用などをカバーしてくれる保険です。インスペクションとは別に費用がかかりますが、加入しておくことで住宅に関するさまざまなトラブルに対処できます。
保険料は延床面積と支払われる保険金によって違ってきます。たとえば、日本住宅保証検査機構の戸建て一般住宅向けの保険プランでは下記の料金設定となっています。
延床面積 | 保険料 | |||
保険金 2,000万円 | 保険金 3,000万円 | 保険金 4,000万円 | 保険金 5,000万円 | |
100平米未満 | 41,300円 | 46,600円 | 50,100円 | 53,600円 |
100~125平米 | 47,100円 | 53,900円 | 58,300円 | 62,800円 |
125~150平米 | 53,500円 | 61,600円 | 67,000円 | 72,500円 |
150~180平米 | 60,800円 | 70,600円 | 77,100円 | 83,700円 |
180平米以上 | 76,700円 | 90,800円 | 100,200円 | 109,600円 |
※株式会社日本住宅保証検査機構「JIOわが家の保険 標準コース料金表」(2021年4月1日~適用)より抜粋
上記の保険料に加えて、2~3万円程度の検査料を加えた金額を支払うことになります。売主・買主のどちらでも加入はできますが、加入者によって選べる保険期間が変わってくるため、注意しておきましょう。
インスペクション実施の流れ
インスペクションをスムーズに実施するためには、依頼をして調査が行われるまでの流れをきちんと把握しておくことが重要です。主な流れとしては、次のようになります。
- 見積もり・調査依頼
- 日程調整
- インスペクション業者へ申込
- 書類の準備、発送
- インスペクション実施
- 報告書作成、受領
- インスペクション費用支払い
インスペクションを行っている会社はたくさんあるため、複数の会社に見積もりを依頼して、納得できる提案を行ってくれるところに依頼をしましょう。スケジュールを調整して、必要な手続きを済ませたら、調査日当日に立ち会う必要があります。
調査についてはインスペクターに任せる形となりますが、気になる部分は事前に伝えて、重点的にチェックしてもらうようにしましょう。調査結果をまとめた報告書が作成されるまでに1週間程度かかります。
報告書が送られてきたら費用を支払い、インスペクションは終了します。依頼する会社選びから調査が完了して報告書が送られてくるまでには時間がかかるため、1ヶ月程度の期間を目安にしておくと余裕をもって進められるでしょう。
まとめ:インスペクション費用を支払い、自宅の付加価値をあげよう!
インスペクションは指定の講習を修了した建築士が実施することから、住宅の欠陥を早期に発見できるというメリットがあります。住宅を売却する際は買主に対して品質や安全性をアピールできるポイントとなりますし、購入する側の場合は事前に住宅の状態を把握できるため、安心して購入することにつながるでしょう。
費用対効果の面からみてもコストパフォーマンスが良いことから、住宅の売買を検討するときには押さえておきたいポイントです。インスペクションを実施したうえで、不動産の一括査定サービスである「おうちクラベルを活用して、物件の正しい価値を把握してみましょう。
Q:瑕疵担保保険はどこに依頼するのでしょうか?
A:瑕疵担保保険は国土交通大臣に指定された業者のみが取り扱えるため、業者が限られています。以下のリンクでは「住宅瑕疵担保責任保険法人」一覧が確認できます。
Q:建物状況調査とインスペクションは違うのでしょうか?
A:宅地建物取扱業法で「建物状況調査」といわれているものと、インスペクションは同じものです。ただし、インスペクションを取り扱う会社では、国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」をもとにして、内容を拡充してより詳しく調査を行っていることが多いようです。