家族に対して不動産の贈与を考えている方は、贈与税について正しい知識を深めておく必要があります。この記事では、贈与税の基本的な知識や不動産贈与における注意点などを解説します。
贈与税の基本
贈与税とは、贈与を受けた人に対して課される税金を指します。そもそも贈与は、贈与を行う人(贈与者)が財産をあげることを意思表示し、財産を受ける人(受贈者)がもらうことを意思表示したときに成立するものです。
贈与税はあくまで個人から個人に対して贈与が行われたときに課税されるものであり、会社などの法人から財産を受け取ったときには贈与税はかかりません。この場合は、贈与税ではなく所得税として取り扱われるためポイントを押さえておきましょう。
また、生前に贈与を行うことで相続税の課税を回避するのを防ぐ意味でも、贈与税の仕組みが設けられています。受け取った財産のすべてに課税されるわけではなく、一定の控除額を除いた金額に税率をかけ合わせることで計算する仕組みです。
贈与税が発生するケースとしては、個人間で財産を受け取ったときや1年間に受け取った贈与額が110万円を超えたときなどが挙げられます。また、本来の価値よりも明らかに低い金額で財産を譲り受けたときや財産を取得するために返済を免除されたとき、対価を支払うことなく不動産の名義変更が行われたときなどが該当します。
贈与税の計算は複雑な部分もあるため、詳しい税額を知りたいときには税理士に相談をしてみましょう。
贈与税の課税制度
贈与税の課税制度としては、大きく分けて「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2種類あります。暦年課税制度の場合は年間110万円までの基礎控除が認められているのが特徴です。
一方、相続時精算課税制度は両親や祖父母からの贈与について、2,500万円までの非課税枠が設けられているのが特徴です。2,500万円を超える部分については一律20%の税金が課せられます。
どちらの課税制度を利用するか選択できるとはいえ、相続時精算課税制度の場合は利用のための条件が設けられており、条件を満たしている場合のみ利用することができます。
暦年課税制度:原則この課税制度が適用
暦年課税制度は、1年間に贈与を受けた財産の合計額をもとに税額を計算する方法です。1年間に2名以上の人から贈与を受けたときや、同じ相手から2回以上贈与を受けたときには、それらの金額を合計して考えます。
贈与税の基礎控除は110万円までとなっているため、2名から60万円ずつ受け取ったり、同じ相手から110万円を超える金額を受け取ったりしたときには、贈与税を申告する必要があります。
暦年課税制度の税率は、「原則的な税率」(一般贈与財産)と「直系尊属から贈与を受けた場合の税率」(特別贈与財産)に分けられます。それぞれの税率を表にまとめると、以下のとおりです。
一般贈与財産の税率
区分 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特別贈与財産の税率
区分 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
受け取った金額や誰から受け取ったかによって、上記のように税率や控除額が異なる点を押さえておきましょう。また、贈与税額の計算式は次のとおりです。
贈与税額=(贈与財産の課税価格-110万円)×税率-控除額
たとえば、300万円の一般贈与財産を受け取ったときは、以下のような計算となります。
(300万円-110万円)×10%=19万円
贈与を受ける際は具体的な税額を考えたうえで、どのような形で受け取るべきかを考えてみましょう。
相続時精算課税制度:3つの条件に当てはまる人が適用
相続時精算課税制度を利用する場合、将来的に値上がりが見込まれる財産は贈与を行ったときの金額で計算されるため、結果として値上がりした分の相続税を節約できるというメリットが生じます。特に不動産の場合は物件によっては将来的な価格の上昇が見込まれることもあるため、相続時精算課税制度のほうが得になる可能性があります。
しかし、相続時精算課税制度を利用するときはいくつかの注意点もあるため、しっかりと押さえておきましょう。まず、相続時精算課税制度を選んだ場合、その後は暦年課税制度に切り替えることができません。
また、相続時精算課税制度の特別控除を受けるには、贈与税を期限内に申告する必要が出てきます。暦年課税制度の場合は贈与を受けたときのみの申告で問題ありませんが、相続時精算課税制度では毎年申告を行う必要があります。
さらに、贈与者と受贈者の年齢や資格についても細かく決められているため、注意しておきましょう。贈与者として認められる人は贈与を行う年の1月1日時点で60歳以上の父母又は祖父母となっています。
受贈者については、贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上であり、贈与者の子や孫にあたる直系卑属である推定相続人である必要があります。推定相続人とは、現在相続が発生した際に最も先順位の相続権を得られる人物のことを指します。
相続時精算課税制度では、税率は一律20%と定められており、特別控除額は最大で2,500万円までです。2,500万円という金額は、贈与者1人あたりの金額である点を押さえておきましょう。
仕組みとしては限度額である2,500万円を使い切るまで有効です。具体的なケースとしては、次のような例が挙げられます。
- 1年目:2,500万円-800万円=1,700万円
- 2年目:1,700万円-600万円=1,100万円
- 3年目:1,100万円-400万円=700万円
- 4年目:700万円-800万円=-100万円
- この差額の100万円×税率20%の20万円が贈与税として発生
相続時精算課税制度によって支払った贈与分は、相続が発生した際に生じる相続税額から控除できます。仕組みとしては相続税の先払いを行っていることになるといえるでしょう。
不動産の贈与で贈与税以外にかかる税金
不動産の贈与では、贈与税以外にも「不動産取得税」や「登録免許税」がかかります。それぞれの税金がどのようなものであるかを把握したうえで、きちんと納税を行うようにしましょう。
不動産所得税
不動産取得税は、土地や建物を購入したり贈与したりした場合に、物件を取得した方に対して課せられる税金です。金銭のやりとりが行われたかどうかにかかわらず、課税対象となります。
ただし、相続によって物件を取得したときには一定の条件を満たせば課税されません。贈与税については、夫婦間で自宅の贈与の特例の適用を受けた場合や相続時精算課税制度の適用を受けたときでも、不動産取得税の課税対象となるため気をつけましょう。
不動産取得税は自治体によって取り扱いが異なりますが、ここでは東京都のケースでみていきましょう。東京都の場合は相続によって不動産を取得したときには、基本的に非課税となります。
不動産取得税の計算方法は、「取得した不動産価格(課税標準額)×税率」で算出します。具体的な税率については、以下のとおりです。
2024(令和6)年3月31日までに宅地等を取得した場合の税率
- 土地、家屋(住宅):3%
- 家屋(非住宅):4%
取得した不動産価格というのは、固定資産台帳に登録されている価格のことを指します。そのため、不動産の購入価格や建築工事費などを指すわけではない点に注意しておきましょう。
また、課税標準額が一定額を下回る場合には不動産取得税は課税されません。
- 土地:10万円
- 家屋(新築・増築・改築):23万円
- 家屋(そのほか):12万円
不動産取得税の納付は定められた期日までに、都税事務所・都税支所・支庁・金融機関・郵便局の窓口などで行えます。また、納付方法としてはコンビニ払い・クレジットカード払い・Pay-easy(ペイジー)・スマホ決済などに対応しているため、決済を行いやすい方法で納税しましょう。
登録免許税
登録免許税とは、土地や建物の登記を行う際に納める税金です。不動産の売買などで物件の所有者が変わるときには、法務局を通じて名義変更の手続きを行う必要があります。
登録免許税の税率は登記の種類によって異なり、土地の売買による所有権移転登記の場合は令和5年3月31日まで固定資産税評価額の1.5%となっています。建物については、新築の場合は固定資産税評価額の0.4%、中古住宅の場合は固定資産税評価額の2%です。
不動産の贈与税で注意すべきポイント
不動産に関する贈与税について注意すべきポイントは、毎年の確定申告が必須である点と特別控除(配偶者控除・不動産購入資金等の非課税制度)が設けられている点が挙げられます。それぞれのポイントについて、さらに詳しく解説します。
ポイント①確定申告は必須
贈与税に関しては、以下のケースに当てはまる場合は確定申告が必要になります。
- 暦年課税を適用する場合には、その財産の価額の合計額が基礎控除額(110万円)を超えるとき
- 相続時精算課税を適用するとき
- 通常は2月1日~3月15日に行う必要があるが、新型コロナウイルスの影響などで延長される可能性がある(令和2年・3年は期間延長あり)
確定申告を行うタイミングは、贈与を受けた翌年の2月中旬から3月中旬頃となっています。住んでいる地域にある税務署に直接提出するか、郵送もしくは電子申告(e-Tax)で確定申告を行います。
贈与税の納税は、所得税よりも半月ほど早く始まります。納税について不明点がある場合は、早めに税務署に相談をしてみましょう。
ポイント②贈与税は特別控除が受けられる
贈与税では「配偶者控除」と「不動産購入資金等の非課税制度」という2つの特別控除が設けられています。配偶者控除は正式には、「夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」と呼ばれるものであり、婚姻期間が20年以上の夫婦間で自宅を贈与したり、新たにマイホームを購入したりするときに適用されるものです。
基礎控除である110万円に加えて、最大で2,000万円の控除を受けることができます。贈与を受けた翌年3月15日までに、贈与によって取得した住宅に受贈者が住んでいることなどが適用条件となっています。
不動産購入資金等の非課税制度は、平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に父母や祖父母などから住宅取得のための資金を贈与されたときに、一定額が非課税となる仕組みです。贈与税の申告を行うことで適用されます。
特別控除①:配偶者控除
配偶者控除を受けるためには、次の条件を満たしておく必要があります。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦
- 居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与
控除額は基礎控除110万円に加えて、最大2,000万円までとなっています。手続きに必要となる書類は以下のとおりです。
- 贈与を受けた日から10日経過した日以後に作成された戸籍謄本・抄本、戸籍の附票の写し
- 居住用不動産を取得したことを証明できる書類
- 固定資産評価証明書
特別控除②:不動産購入資金等の非課税制度
不動産購入資金等の非課税制度とは、父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受けて、マイホームを取得したり、増改築を行ったりしたときに適用されるものです。
非課税となる限度額については、国税庁のサイトでは次のように掲げられています。
住宅用家屋の新築等にかかる契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年12月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
住宅用の家屋の新築等にかかる対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
住宅用家屋の新築等にかかる契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
なお、非課税措置は次の8つ要件をすべて満たす受贈者に適用される点もあわせて押さえておきましょう。
- 贈与を受けたときに、贈与者の直系卑属であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で、20歳以上であること
- 贈与を受けた年の所得金額が2,000万円以下(家屋の床面積が40平米以上、50平米未満の場合は1,000万円以下)であること
- 平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと
- 配偶者や親族などから取得した家屋でないこと
- 贈与を受けた翌年3月15日までに、住宅取得等資金の金額を使って家屋の新築等を行うこと
- 贈与を受けたときに、日本国内に住所があること
- 贈与を受けた翌年3月15日までに、その家屋に居住すること
不動産贈与は知識を身につけて賢く節税をしよう
不動産の贈与を受ける場合は、贈与税の基本的な仕組みを理解したうえで、活用できる特例制度などを積極的に使っていくことが大切です。制度をうまく活用するには定められた条件に当てはまっている必要があり、贈与税の申告も適切に行う必要があります。
税金のことで後からトラブルになってしまわないためにも、どのような場合にいくらまで控除が認められているのかを把握しておきましょう。不明な点は最寄りの税務署や税理士に早めに相談をすることで未然にトラブルを防げます。
Q.相続時精算課税制度のメリットを教えてください!
A.相続時精算課税制度の最大のメリットは、相続税が節税できる点でしょう。今後価値が上昇する可能性がある不動産の場合、贈与時点での価格が反映されます。そのため、贈与時の価格よりも相続時の価格が高い場合には相続税の節約ができます。
Q.不動産購入資金等の非課税制度を利用したいのです。しかし、すべての要件を満たす必要があるとのことですが、1つでも満たしていなければ適用されませんか?
A.不動産購入資金等の非課税にするためには、すべての要件を満たす必要があります。非課税にするための条件は厳しいですが、その恩恵も大きいためもれなく条件を満たしたいところです。