世界的なインフレ傾向や長期にわたる国内経済の低迷、さらにはコロナ禍による影響などもあり、不動産市場の見通しは例年にも増して不透明なものとなっています。2023年についていえば、オフィスの空室率拡大化や少子化による世帯数の減少、金融緩和縮小の影響などが大きな懸念材料です。
そこでこの記事では2023年以降の不動産市場の動向について、2022年までの状況を振り返りながら、大まかな見通しについて解説します。
1.2023年の日本の不動産市場の動向のカギ3選
コロナ禍に加え、ウクライナ戦争による影響、そして世界的なインフレ傾向など、2023年の世界経済はさらに難しい局面を迎えそうです。日本の不動産市場にとっては「オフィス空室率の増加」や「世帯数の減少」、そして政策転換を迎えた「住宅ローン金利の上昇」の3つのトピックが、市場を左右する大きなカギとなるでしょう。
1-1.オフィスの大量供給による空室率の拡大
2023年は東京のオフィスの空室率の拡大が予想されています。その1つの要因と考えられるのが、オフィスビルの需給バランスの崩壊です。数々の再開発プロジェクトが2023年に軒並み竣工時期を迎える影響で、大量のオフィスが供給されることが見込まれています。その供給量は「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」や「東京三田再開発プロジェクト・オフィスタワー」、「渋谷駅桜丘口地区の市街地再開発事業」を中心に、推定で約128万平方メートルとのこと。2022年度のオフィス供給量は約48万平方メートルだったのと比べると、なんと約2.7倍の供給量となります。
一方、オフィスビルの需要そのものは低下しているのが現状です。三幸エステート株式会社の「2022年8月オフィスマーケット調査月報 東京23区」によると、都内主要5区のオフィスの空室率は、2020年1月の1.13%から2022年8月で5.04%にまで上昇しています。コロナ禍で広まった「テレワーク」を継続する企業の数が増えている影響もあり、2023年は需要と供給のミスマッチがさらに拡大しそうです。
1-2.2023年をピークに世帯数の減少の予測
2023年には「世帯数の減少」が深刻な局面を迎えます。国立社会保障・人口問題研究所の予測データによると、世帯総数は2023年をピークに減少し始めるとのことです。推計では2023年時点の世帯総数5,413万世帯から、17年後の2040年時点で5,076万世帯にまで減少すると予測されています。
さらに世帯数だけでなく、「世帯人員数」と「世帯構成」も変化していく点も大きな課題です。各世帯の平均世帯人員数に着目すると、2015年時点で2.33人だった世帯人員数は2040年には2.08人にまで減少し、世帯構成は「単独世帯」「夫婦のみの世帯」「一人親と子」などの2人以下の世帯が中心となります。同時に各世帯の高齢化も進むため、不動産の売却や移転などが今後増加しそうです。
1-3.金融緩和縮小による住宅ローン金利上昇の可能性(2022年12月20日発表)
2022年末最大の経済トピックとなったのが、日銀の金融緩和政策の縮小です。日銀は2022年12月20日に開かれた金融政策決定会合で、これまで「0.25%程度」に制限していた長期金利の上限を「0.5%程度」にまで引き上げる決定をしました。これは「事実上の利上げ」との声もあり、住宅ローンをめぐる環境が大きく変わる可能性が高まっています。
今回の決定では小幅な金利の引き上げにとどまるため、不動産市況に大きな影響はないとみられますが、今後は採算割れレベルでの低金利を維持してきた金融機関のマインドが変わるかもしれません。今のところ「変動金利」については変化はないものの、10年国債の利回りが上昇したことにより、すでに「固定金利」は影響を受け始めています。今後の金利上昇のリスクについては注視しておく必要があるでしょう。
2.2023年の不動産市場の今後の見通しは?購入や売却はすべき?
不動産市場にとって厳しい状況も予測される2023年。不動産を購入や売却を予定されている方は、どのような点に注意したらいいのでしょうか。2023年の全体的な市場傾向からみた注意点をみていきましょう。
2-1.購入は物件価格や金利の上昇を視野に
近い将来に不動産の購入を予定している場合は、なるべく早めに行動することをおすすめします。ここ数年は世界的なインフレ傾向やウッドショックなどの影響もあり、建築材料の価格が高騰中です。今後も世界的な木材の供給不足などは続くとみられ、今後も新築住宅を中心に、価格の上昇傾向が続くと予測されます。さらに金利の上昇リスクもあるため、住宅ローン金利の負担が大きくなる可能性も否定できません。
一方で、今すぐ購入の予定がないという方にとっては、しばらく様子見する戦略もアリです。長い目で見ると住宅需要の低下、金利上昇による不動産購買意欲の低下などの影響が出始めるため、不動産価格が下落に転じる時期を待ってみるのも1つの選択となるでしょう。
2-2.売却は不動産価格の動向の見極めが重要
売却を検討する場合は、今後の不動産需要の変化を見ながら慎重に予定を立てたいところです。不動産価格はそのときの経済状況に少し遅れて連動する傾向があるので、日本経済の低迷が長引くようだと、徐々に不動産価格も下がり始める可能性があります。特に住宅ローン金利の動向には注目しましょう。住宅ローン金利が上昇し始めると住宅の購入意欲が下がり、買い手の母数そのものが減少します。売り手には不利、買い手には有利、といった状況に変化するかもしれません。
2022年12月の日銀の緩和縮小決定により、すでに一部の大手銀行では固定金利を上げる動きが見られます。まだ不動産市場への影響は限定的ですが、今後は金利上昇のリスクも考えて不動産の売却を検討することが重要です。
2-2-1.売却を検討している人は不動産一括査定サイトで市場価格を知っておこう
不動産は立地、間取り、築年数などによっても価格評価がかなり違ってきます。そのため、売却を検討する場合は、売却予定の不動産の相場価格を正確に把握することが大切です。あまりに相場とかけ離れた価格設定だと、売却までに予想以上の時間がかかるリスクがあります。
不動産価格を知る方法としては、不動産一括査定サイトの利用がおすすめ。信頼できる不動産一括査定サイトであれば、業界トップクラスの不動産会社からの複数の見積もりを比較できるので、相場価格を把握しやすいです。
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3.最新のマンション・戸建の不動産市況
2023年の不動産市場を予測するうえで、2022年度までの各地域での市況データが参考になります。ここからは、2022年10月に宅建協会(全国宅地建物取引業協会連合会)が毎年出している「不動産市場動向データ集」を元に、各地域別、物件の種類別ごとでの市況分析を解説します。
3-1.首都圏の新築マンション市況
2022年10月の首都圏新築マンションの供給戸数は前年比から34.7%増加し、平均価格は6,787万円でした。供給量が増えたにもかかわらず、2022年の初月契約率は71.9%で、好不調の目安とされる初月契約率70%を5ヶ月ぶりに上回っています。一方、新築マンションの在庫数は26ヶ月連続で前年を下回り8.0%の減少となっているため、全体的に新築マンションは供給不足気味の状態です。
特に首都圏はコロナ禍の最中にあっても住宅ニーズが高く、2022年も好調な売れ行きを堅持しました。今後は供給不足の状況に加えて、世界的なインフレや建築材の不足などの不安要素もあるため、人気のある地域を中心に価格の高止まり傾向が続きそうです。
3-2.近畿圏の新築マンション市況
2022年10月時点での近畿圏の新築マンション供給戸数は、前年比で45.5%の増加です。平均価格は5,374万円で、成約㎡単価は前年同月比で16.0%増と、高額物件の売れ行きも好調でした。初月契約率も74.4%と好調の目安となる70%を上回っています。
近畿圏の住宅市場は全体的に好調を維持しており、特に大阪府から兵庫県にまたがる阪神地域や神戸市内の新築マンションの人気は安定しています。ここ数年の人気はタワーマンションに集中していましたが、現在はコロナ禍の影響もあり、より広い敷地面積の住まいへのニーズも高くなっているようです。
3-3.首都圏の中古マンションの市況
2022年10月期での首都圏中古マンションの成約件数は、前年比10.7%の減少でした。成約率も前月比で0.6%減ですが、成約㎡単価は69.4万円で前年比0.4%増となっており、高額物件の成約数は比較的好調です。一時期的に供給不足となっていた中古マンションの在庫数も2022年10月期で9ヶ月連続増、前年比で14.4%増となっており、供給量そのものも回復傾向にあります。
全体的にみて中古マンションの売れ行きは好調でしたが、需要のある地域とない地域で、差がつき始めている点に注目したいところです。やはりコロナ禍による住宅ニーズの変化による影響は大きく、「立地」よりも「広さ」を求める傾向が顕著になっています。
特に首都圏の郊外では広めの中古マンションに対するニーズが高まっており、さらにその周辺の千葉県や埼玉県では、新築一戸建てに需要がシフトしているようです。
3-4.近畿圏の中古マンションの市況
2022年10月期の近畿圏中古マンションの成約件数は、2ヶ月振りに前年を下回り3.4%減、その一方で成約㎡単価は21ヶ月連続で前年を上回り11.2%の増加と、明らかに高額物件が選好されている状況が読み取れます。やはり売れ行きのよい地域は大阪市内、神戸市内です。この両地域は近畿圏で最も人気があり、中古マンションの相場も比較的高価格のまま推移しています。首都圏と比べると価格相場が低いことや圧倒的な利便性もあって、コロナ禍の影響もそれほどなく売れ続けているようです。
一方、近畿圏で大阪、神戸と並ぶ人気地域の京都市は、セカンドハウス需要やインバウンド投資の対象となりやすいためか、価格は鈍化傾向にあります。
3-5.首都圏の中古戸建の市況
首都圏の中古戸建の成約件数は10ヶ月連続で前年を下回り、前年比で2.3%減、成約率は前月比0.3%の減と、若干鈍化する傾向がみられました。コロナ禍の影響で2020年4月ごろに成約数は大きく落ち込んだものの、比較的早い段階で回復しており、現在はそれほど市場への大きな影響はなさそうです。
しかし、成約平均価格は3,728万円と24ヶ月連続で前年を上回っており、原材料価格の高騰などを背景とした価格の上昇圧力を感じさせます。徐々に平均価格は上昇しており、今後の需給バランスが注目される状況です。
3-6.近畿圏の中古戸建の市況
2022年10月期の近畿圏での中古戸建の成約件数は、2ヶ月連続で前年を上回って2.5%の増加でした。成約平均価格は2,220万円と21ヶ月連続で前年を上回っているものの、その上昇率は1.6%増とほぼ横ばい。中古戸建住宅は実需が中心となるため、経済情勢や雇用情勢の影響をかなり受けやすく、近畿圏では新築物件に対する需要は高い一方で、中古戸建需要は少し力強さに欠けます。
さらに2022年12月のデータを見ると、成約率は前年比2.8%の減少に転じています。もともと住宅向けの大規模な開発地域も少なく、一戸建ての持ち家率も高い地域といった背景もあり、今後も中古戸建の需要が急激に高まることはなさそうです。
3-7.東京都心5区のオフィスの市況
東京都心5区でのオフィス市況は、2022年10月時点での平均賃料が23ヶ月連続で前年を下回り前年比3.3%減でした。これは実数値の前月比で27ヶ月連続での下落です。しかし、空室率は6.44%と、実に30ヶ月振りで前月と同水準まで回復しています。
都心のオフィスはコロナ禍の影響をもろに受け、2020年には2%未満だった空室率が一気に6%台にまで上昇してしまいました、ただ、2021年あたりからは空室率の上昇が収まり、それ以降はだいたい6%台で推移しています。リモートワークが普及したことで郊外のオフィスや面積の「縮小」ニーズが高まっていることもあり、都心のオフィス需要が以前の水準に戻るかどうかは、かなり不透明な状況です。
4.2024年以降の長期的な不動産市場の見通し
2023年には人口減に加えて世帯数の減少が始まり、世界経済の動向もより不安定化するなど日本の不動産市場にとって厳しい局面が続きます。次に2024年以降、長期にわたって特に注視しておきたい3つのトピックについて、簡潔に解説しましょう。
4-1.少子高齢化による供給過多
少子高齢化は日本の抱える大きな課題ですが、不動産市場にとってもその影響は深刻です。厚生労働省の発表によると、2023年には総人口だけでなく、「世帯数」も減少に転じ始めると予測されています。少子化が進めば進むほど、住宅の購買層となる「子育て世帯」も減少してしまうため、全体的な住宅需要は徐々に落ち込んでいくでしょう。
さらに追い打ちをかけるのが、いわゆる「2025年問題」。2025年には団塊の世代(1947〜1949年生まれの世代)が75歳となるため、国民の5人に1人が75歳以上となります。住宅需要は減るにもかかわらず、高齢を理由に住宅を手放す人の数は増えるため、住宅の供給過剰や空き家問題の顕在化といった問題も大きくなりそうです。
4-2.2025年大阪万博による周辺価格の上昇
ネガティブな予測の多い中、数少ないポジティブ要因とされているのが「大阪万博」の開催です。大阪万博は2025年4月から10月にかけて、大阪で開催される国際イベントです。国の試算では約1兆9,000億円、りそな総合研究所の試算でも約1兆3,000億円の経済波及効果があると見積もられており、経済的な起爆剤として期待されます。
主要会場となる大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲(ゆめしま)」とのアクセスを改善するため、市内と結ぶ「夢舞大橋」の整備や大阪メトロの伸長工事などが実施予定です。これによって、今まで使い道のない土地だった夢洲の再開発が一挙に進む可能性があります。その波及効果で、もともと人気地域である大阪市内の不動産価格がさらに上昇するかもしれません。
4-3.地方と都市部の二極化
少子高齢化や人口減少によって、地方と都市部の2極化がさらに進むと予想されます。東京都心や近畿圏、名古屋などの大都市圏の住宅市場はコロナ禍の中でも比較的堅調だったのに対し、地方都市では住民の流出などの空洞化が進んでいるのが現状です。高齢化が進むと、交通アクセスや生活インフラの整わない地方から利便性の高い都心部へ移住する人が増えます。地方の人口流出は若者だけでなく、高齢者世帯の増加も大きな原因となっているのです。
一方、都市部には若い世代を中心に人口が集中するため、再開発も進みます。東京都心や大阪市内や名古屋市内だけでなく、「札仙広福」と呼ばれ人気を集める「札幌市」「仙台市」「広島市」「福岡市」といった地方の中核都市でも「ミニバブル」状態の地域が見られるようになりました。
今後もこのような「都市部」と「地方」の格差は広がる一方と予測されるので、地域ごとの需要と供給をよく見極める必要があるでしょう。
5.2022年の国内不動産市場の振り返り
不動産市場の今後を予測するうえで、激動だった2022年を振り返ることも大切です。新型コロナウイルスの流行やウクライナ戦争の勃発、円安の進行など、2022年は実にさまざまなことが起こりました。このような外的要因が不動産にどのような影響を与えたかを把握しておくことで、今後の不測の事態への対応・予測もより正確なものとなるはずです。
5-1.コロナ禍の住宅需要の上昇
2020年初期から流行した新型コロナウイルスは、まだまだ収束の気配を見せていません。生活スタイルにも大きな影響を与えるコロナ禍は、住宅需要やオフィス需要にも影響を及ぼし始めています。
国土交通省が2020年10月に実施した「住まいに関する意識等に関する調査」アンケートによると、回答者の約1割が「住み替え意向」や「購入する住宅の建て方に関する意向」にコロナの影響があったと回答しています。そのうち、「住み替えの意向がある」と答えた人の多くは「共同住宅」から「一戸建て」に住み替えたい、と考えており、さらに一戸建てに住む替えたい人のを希望する人の約3分の2が「新築一戸建て」を希望している、と回答しました。実際に不動産の販売動向を見ても、首都圏では比較的郊外の地域を中心に、新築一戸建ての需要が高まっているようです。
5-2.ウクライナ侵攻による輸入制限
2022年の重大な出来事の1つは、ロシアによるウクライナ侵攻でした。ロシアは戦争開始後、非友好国に対する資源の輸出を禁止しています。幸い、木材については影響は少なく、ロシアからの輸入額は日本の木材輸入額の約6%にとどまっているので、直接的な影響は少ないです。
しかし、世界の森林面積の約20%を占めるロシアの輸出制限は、世界的な木材供給力の低下という悪影響を招いています。コロナ禍によってアメリカや中国などでの住宅需要が高まっているため、全世界で建築用木材の取り合いが生じているのが現状です。特に輸入材に頼りがちなローコスト住宅を主力とするハウスメーカーは、今後大きな影響を受ける可能性があります。
5-3.世界的なインフレと円安による海外投資家の購入熱
日本経済にとって世界的な「インフレ」と「円安」は原料価格の高騰などの悪影響を及ぼす要因となりますが、世界中の不動産投資家にとっては大きなビジネスチャンスです。海外から見ると日本の不動産は相対的に安くなりますので、海外投資家の不動産購入熱自体は高まっています。超低金利政策の影響もあり、利回りの高い物件を中心に価格が高騰したケースも見られました。
ただ、今後もこの「円安需要」が続くかどうかは不透明です。一説には「円安はピークを超えた」との見方もあり、日銀も2022年12月に長期金利変動幅を0.5%に拡大するなど、過度な円安とインフレを防ぐための方策を模索し始めています。円安や利回りでのアドバンテージが失われると、海外投資家勢が一斉に不動産を売却する可能性も考えられるでしょう。
5-4.資材価格の高騰
2020年に発生したコロナ禍以降、世界規模での木材の取り合いによる価格の高騰、いわゆる「ウッドショック」が起こっています。
コロナ禍はさまざまな国に変化を引き起こしています。アメリカや中国では、戸建ての広い家を求める傾向が強まり一気に建築需要が高まった結果、木材不足に陥いりました。その一方で、木材供給国のカナダでは木材の伐採人員の確保に苦しむ事態となり、一部の製材所は稼働できない状況に追い込まれたそうです。2022年は需要と供給の両面で、資材獲得の難しい1年だったといえます。
世界的な住宅の建設需要が高止まり状態にある中、ウッドショック収束の見通しはまだ立っていません。建築資材の取り合いはしばらく続きそうで、住宅の建築コストは今後さらに上昇する可能性があります。
5-5.東京オリンピック終了の影響は少ない
オリンピックが東京で行われることが決まった2013年以降に、首都圏の不動産の価格が上昇してきました。国土交通省の発表する「不動産価格指数」を元にニッセイ基礎研究所が作成したグラフを見ると、不動産価格指数は2013年と比較して2022年1月時点でマンションは約1.8倍近く、戸建ても1.2倍近くにまで上昇しました。
コロナ禍の影響で、不動産価格は2020年の上半期に一時的に落ち込んだものの、その後すぐに回復傾向を見せており、首都圏の住宅需要も上昇傾向が続いています。東京オリンピック開催後の2022年には不動産価格が下落するとの予測がありましたが、実際に価格の下落は生じておらず、東京オリンピック終了の影響はあまりなかったと評価できるでしょう。
5-6.日経平均株価は不動産市場の先行指標
不動産価格を予測するヒントとして参考にされているのが、「日経平均株価」と「土地価格(地価公示平均価格)」の相関性です。日経平均株価は不動産価格の先行指標と呼ばれているほどで、株価の変動に少し遅れて土地の平均価格が連動することが多いことで有名です。
2022年も両指標の相関性を感じさせる動きがありました。日経平均株価は2022年に入り、若干下落の兆候を見せ始めましたが、地価公示価格もそれに連動するかのように、緩やかな上昇期から停滞期へ入っています。今後も株価の低迷が続く場合、2023年、2024年以降の不動産価格は下落に転じるかもしれません。あらためて2023年以降は「日経平均株価」に注目しておきましょう。
6.不動産価格指数の意味は?建物種別の推移も紹介
不動産価格の動向を把握する指標の1つが「不動産価格指数」です。不動産価格指数とは、国土交通省が年間約30万件以上の不動産の取引価格情報をもとに、不動産価格の動向を数値化した指標のこと。2010年の平均値を100とした場合の指数を毎月単位で算出しており、不動産価格の推移を長期間で比較することができます。もともとは金融危機の予測を目的に公表されている指標ですが、現在は不動産価格の推移状況をわかりやすく判断する材料として幅広く参照されています。
それでは各不動産の種類別に、不動産価格指数の推移を見ていきましょう。
6-1.住宅総合の不動産価格指数の推移
国土交通省の2022年11月30日発表の「不動産価格指数」によると、2022年8月時点での不動産価格指数(住宅総合)は前年度に比べて9.5%増と、全国的に上昇傾向でした。新型コロナウイルス感染症が広がり出した当初は価格の下落もみられましたが、総じて2020年代からは住宅全体の価格が上昇していると評価できるでしょう。
住宅用不動産の不動産価格指数は、「住宅地(更地)」「戸建住宅」「マンション」の3つにカテゴリー分けされます。さらに対象地域が「全国」「ブロック別(関東地方、東北地方など)」「都市圏別(東京、大阪、愛知)」「都道府県別」に分かれており、各地域ごとで不動産価格の推移を比較することも可能です。
さらに細かく「住宅地(更地)」「戸建住宅」「マンション」に分けて、不動産価格指数を見ていきます。
6-1-1.住宅地(更地)の不動産価格指数の推移
住宅地の価格指数は2010年からほぼ横ばいで推移していましたが、2020年以降から微増傾向にあります。総合値での不動産価格指数は2022年8月時点で111.1、これは前年比109.5から1.6ポイントの微増です。
都市圏別で見ると、東京圏(南関東)の不動産価格指数は120.6で前月比3.9%増と、好調を維持しています。一方、京阪神圏は110.5で前月比2.8%減、名古屋圏は110.5で前月比5.8%減と、不動産価格は停滞気味です。特に2022年後半にかけては、東京圏以外の地域での土地の価格に落ち着きが見られたようです。
6-1-2.戸建住宅の不動産価格指数の推移
「戸建住宅」の不動産価格指数も住宅地と同じく、2010年からほぼ横ばいで2020年以降から微増という傾向が続いています。2022年8月の指数は117.2で、前年比108.0から9.2ポイントの上昇となっています。
地域別にみると、東京圏(南関東圏)は121.3で前月比1.6%増、京阪神圏は119.7で前月比1.2%減、名古屋圏は119.7で前月と変わらずでした。首都圏を中心に、戸建住宅に対する需要が高まっているといえそうです。
6-1-3.マンションの不動産価格指数の推移
マンションの不動産価格指数は2013年以降ずっと右肩上がりです。その上昇幅は住宅地や戸建て住宅をはるかに上回るペースで、2010年から2022年までの間に不動産価格指数は1.8倍以上となっています。2020年以降はさらに上昇ペースが上昇中。2022年8月分(最新)時点のマンションの不動産価格指数は183.1で、前年の168.9と比べて14.2ポイントもの増加となっています。
地域別で見ると、東京圏(南関東)は177.9で前月比から0.2%減、京阪神圏は185.7で1.3%減、名古屋圏は182.9で3.0%増、という結果です。いずれも短期的にはほぼ横ばいかプラスといったところで、大都市圏でのマンション需要の安定感を示す結果となっています。
6-2.商業用不動産の不動産価格指数の推移
次に商業ビルやオフィス、店舗などの「商業用不動産」の不動産価格指数の推移をみておきましょう。2022年第2四半期の不動産価格指数(商業用不動産総合)は前年度に比べ9.7ポイント増の132.9となっており、全国的な上昇傾向が見られます。商業用不動産についても「店舗」「オフィス」「マンション・アパート(1棟)」の3つのカテゴリーに分かれていますので、順番に推移を確認してみましょう。
6-2-1.店舗の不動産価格指数の推移
商業用不動産は2019年までは上昇傾向にありましたが、2020年以降は下落と上昇を繰り返す状況となっています。2022年8月時点での「店舗」の不動産評価指数は138.2で、前年度の144.8からは6.6ポイント減でした。やはり経済状況の不安定化や、コロナ禍による店舗ビジネスの縮小などが影響した数字といえそうです。
各地域での状況は、東京圏(南関東圏)が155.4で前期比3.5%減、三大都市圏は146.7で2.9%減となっています。全体的に都市圏のほうが減少幅が大きくなっているようで、賃料の安い地域への需要が高まっている傾向が読み取れます。
6-2-2.オフィスの不動産価格指数の推移
オフィスの不動産価格指数は2013年から上昇傾向にありましたが、近年は上昇と下降を何度も繰り返しているのが現状です。2022年8月時点でのオフィスの不動産価格指数は157.0で、前年の139.5と比べると17.5ポイント増でした。コロナ禍の影響がひと段落し、オフィスの移転や集約が進んだ結果、一時期よりも落ち着きを取り戻したようです。
地域別でみると、東京圏(南関東圏)は196.0で前期比12.5%増、3大都市圏は161.1で前期比4.5%増なので、やはり東京都心における不動産価値の高さが突出した結果となっています。ただし、市況としてはほぼ横ばいといったところですので、空室率の推移なども見たうえで市況を判断する必要がありそうです。
6-2-3.マンション・アパート(一棟)の不動産価格指数の推移
マンション・アパート(一棟)の不動産価格指数は2013年から上昇傾向です。2022年第2四半期分(最新)時点の不動産価格指数は155.7で、前年の144.1から11.6 ポイント増となっています。
地域別に見ると、東京圏(南関東圏)は150.2で前期比3.4%増、三大都市圏は152.8で前期比2.6%増となっています。オフィスと比べて、地域ごとに大きな差はあまりない点が特徴的です。円安の続くうちは海外からの投資も増える可能性があり、大型不動産を中心に価格上昇が継続する可能性があります。
売却を検討している人は不動産一括査定サイトを利用して相場を把握しよう!
2022年末に出た公表データをもとに、2023年の不動産投資の見通しについて解説しました。不動産市場は全体的に価格の上昇傾向が続いていますが、2023年以降は世界情勢の不安定化や円安、インフレなどの経済的要因、さらには日銀の長期金利政策の変更などの影響で、潮目の変わる年になるかもしれません。今回ご紹介した市場の動向や各地域別の不動産市況、不動産価格指数などを参考に、不動産市場全体の動向をうまくつかみましょう。
その一方で、不動産は1つとして同じ物件は存在しない以上、実際に売却や購入をお考えの場合は対象物件の評価を正確に知ることが不可欠です。特に不動産の売却では、タイミングや価格設定次第で、売却までもスピードが大きく変わってしまいます。効率よく売却につなげるためには、早めの段階で不動産一括査定サイトなどを利用し、正確な相場価格をつかむことが重要です。
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