親族間での土地売買、相続や離婚による財産分与の必要性が生じた場合などに、ベースとなる不動産評価額を専門家に依頼して算出してもらうのが「不動産鑑定」です。
実際には人生でそれほど依頼する機会があるものではなく、実生活では馴染みがない人も多いため、不動産鑑定がどのようなものかイメージがつかないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、さまざまな理由で今後不動産鑑定を検討している人に向けて、不動産鑑定の費用相場や費用形態、不動産鑑定費用を安く抑えるための3つの方法などを解説していきます。
1.不動産鑑定の費用相場は約20万円から
不動産鑑定は、高度な専門性と知識を有する国家資格である不動産鑑定士によって行われます。不動産鑑定士は、国が定める「不動産鑑定評価基準」をベースに依頼された不動産の詳細な調査・分析を行い、「不動産鑑定評価書」を作成します。
この不動産鑑定評価書は、税務署や裁判所といった公的機関でも正式な書類として取り扱われ、不動産評価書の中で唯一法的効力を持つものです。
こうしたことから、不動産鑑定を依頼する場合には約20〜30万円の費用がかかります。鑑定を依頼する物件種別ごとの費用相場は次のとおりです。
戸建ての費用相場 | 20万円〜 |
マンションの費用相場 | 30万円〜 |
建物のみの費用相場 | 20万円〜 |
土地と建物の費用相場 | 25万円〜 |
2.不動産鑑定の3つの費用形態
国家資格である不動産鑑定士に依頼して行う不動産鑑定には、大きく「積み上げ型」「報酬基準型」「定額型」という3つの費用形態が存在します。
このうち、多くの不動産鑑定会社で取り入れられているのが「報酬基準型」であり、逆に「定額型」はあまり採用されていません。そもそも不動産鑑定の報酬には規定などがなく、原則不動産鑑定事務所ごとで自由に決定できます。
以下では3つの費用形態について、それぞれの特徴を見ていきましょう。
2-1.①積み上げ型
不動産鑑定における費用形態の1つ目は「積み上げ型」です。積み上げ型はその名のとおり、不動産鑑定士の作業量に応じて費用が積み上げられていきます。この後紹介する報酬基準型と異なり、費用の基準額は設けられていません。
主に、大規模な土地や、複雑な作業が必要となる不動産をメインに取り扱う不動産鑑定会社で採用されている形態で、採用数はそれほど多くありません。
2-2.②報酬基準型
不動産鑑定における3つの費用形態のうち、最も多くの不動産鑑定会社で採用されているのが「報酬基準型」です。
報酬基準型は、不動産鑑定会社が鑑定対象不動産の種別ごとに設定した基準額をベースとして、鑑定費用を算定します。不動産鑑定会社が基準額を決めるにあたっては、国が公共事業に係る土地買収などで用いる「基本鑑定報酬額表」を参考にするのが一般的です。
報酬基準型では基準額が設けられており、事前に費用を明示してもらえることから、依頼する人にとってわかりやすい費用形態と言えます。基準額はあるものの、最終的な費用は土地の権利関係や調査・分析に要する時間・手間などによって変動します。
2-3.③定額型
最後の「定額型」は、鑑定対象となる物件の種別や鑑定に係る作業量などに関わらず、一定の費用で鑑定を行う費用形態です。
どんな鑑定内容であっても定額になるので、依頼する側からすれば安心でわかりやすい費用形態であるものの、実際に採用している不動産鑑定会社はあまりありません。なぜなら、鑑定対象の不動産によって業務量が大きく異なるためです。
裏を返せば、定額型を採用する事務所は仕事を受ける物件の面積や種別などを絞っているか、もしくは作業の過程で手抜きをしている可能性もあるため、設定を十分に確認しておく必要があります。
3.無料査定と有料鑑定の違い
不動産鑑定と似た言葉で、「無料査定」あるいは「不動産査定」といった言葉を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。この2つの違いを簡単にまとめると次のとおりです。
- 無料査定
不動産会社がサービスの一環として、物件売却を検討している人に対して売り出し価格の参考値を提示するもの。不動産会社の担当者(宅地建物取引士)によって無料で行われ、査定結果に法的効力はない。 - 不動産鑑定(有料鑑定)
国家資格の不動産鑑定士が、国の定める「不動産鑑定評価基準」をベースに対象不動産の価値を算出するもの。不動産鑑定士は鑑定結果に対して法的な責任を負うものとされ、鑑定結果には法的効力がある。
このように、無料査定と有料鑑定は性質が全く異なるものです。それぞれどのようなケースで用いるのがいいのか見ていきましょう。
3-1.無料査定が適しているケース
無料査定は不動産会社がサービスの一環として行うものであり、対象不動産の売却を検討している場合に適しています。
無料査定を複数の不動産会社に依頼することで、対象不動産を売却するにあたっての相場観を確認できるのに加え、査定するプロセスでの担当者の対応などから、その後仲介業務を任せる不動産会社選びの参考にもなります。
なお、無料査定で提示される金額はあくまでも不動産会社ごとの参考値です。中には将来の媒介契約を勝ち取るために、わざと相場よりも高い価格を提示する会社も存在するため、必ず複数社に依頼して比較検討するのが大切です。
複数の不動産会社に無料査定を依頼するには、不動産一括査定サイト「おうちクラベル」が便利です。
3-2.有料鑑定が適しているケース
一方の不動産鑑定(有料鑑定)は、約20〜30万円という決して安くない費用がかかります。そのため、鑑定結果に法的効力を持たせる必要がある場合においてのみ行うのが一般的です。
具体的に不動産鑑定が必要なケースは後の章で紹介しますが、たとえば相続による遺産分割をする場合や、離婚による財産分与を実施する場合などが考えられます。こうしたケースでは裁判や納税といった公的な手続きを踏まえなくてはならないため、法的効力のある有料鑑定が求められるのです。
「不動産の参考価格が知りたい」といった程度であれば無料査定で十分であり、費用をかけて不動産鑑定を行う必要はありません。
4.不動産鑑定評価を決める3つの要因
不動産鑑定による評価を決定する要因(価格形成要因)としては、大きく「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」の3つが挙げられます。
これらの3つの要因は、不動産の効用(その物件を活用することで何を獲得できるか)、相対的希少性(その物件が他と比較してどれだけ希少性が高いか)、有効需要(どれだけニーズがあるか)という3点に影響を与え、鑑定評価を左右するとされています。
4-1.①一般的要因
不動産鑑定評価を決める要因の1つ目は「一般的要因」と呼ばれるものです。これは、一般経済社会における不動産のあり方や、その価格の水準に影響を与えると考えられる要因を指します。
一般的要因に含まれる主な要因としては、次のようなものが挙げられます。
- 自然的要因
地質や地盤・土壌などの状態、地勢の状態、地理的位置関係、気象の状態など - 社会的要因
人口の状態、家族構成の状態、都市形成や公共施設の整備の状態、不動産取引や使用収益の慣行、情報化の進展の状態など - 経済的要因
貯蓄・消費・投資の状態、財政や金融の状態、物価・賃金・雇用の状態、税負担の状態、交通体系の状態、国際化の状態など - 行政的要因
土地利用に関する計画や規制の状態、土地・建物の構造・防災などに関する規制の状態、不動産関連の税制や規制の状態など
このように、一般的要因はマクロな視点で鑑定評価に影響を与えるものと言え、大きな景気変動、人口減少や少子高齢化といった社会情勢が変化するタイミングで影響してくると考えられるでしょう。
4-2.②地域要因
続いて「地域要因」とは、そのエリアに属している不動産の価格形成に全般的な影響を与える要因を指します。地域要因は一般的要因と相関的に結合しながら、不動産におけるエリア特性を形成することで、エリア内の不動産の鑑定評価に影響を及ぼすのです。
エリアの属性ごとに、主な地域要因を見ていきましょう。
- 住宅地域
気象の状態(日照・温度・湿度・風向等)、周辺街路の幅員や構造の状態、都心からの距離や交通アクセスの状態、商業施設の配置の状態、生活インフラの整備の状態、嫌悪施設の有無、災害発生の危険性、公害の発生の程度、街並みの状態、眺望や景観といった自然的環境の良さ、土地利用に関する計画や規制の状態など - 商業地域
商業施設や業務施設の種類や規模・集積度の状態、商圏内の顧客数と質の状態、顧客と従業員の交通手段の状態、商品の搬入出の利便性、街路の回遊性やアーケードの状態、繁華街の規模感や盛衰の動向、行政による助成や規制の程度など - 工業地域
輸送施設の整備の状況、労働力の確保のしやすさ、販売市場や原材料仕入地との位置関係、公害発生の危険性、行政による助成や規制の程度など - 農地地域
気象の状態(日照・温度・湿度・風雨等)、地勢の状態(起伏・高低等)、土壌の状態、水利・水質の状態、災害発生の危険性、マーケットとの位置関係、行政による助成や規制の程度など - 林地地域
気象の状態(日照・温度・湿度・風雨等)、標高や地勢の状態、土壌の状態、労働力の確保のしやすさ、行政による助成や規制の程度など
4-3.③個別的要因
最後の「個別的要因」は、鑑定対象となる不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別に形成する要因を指します。土地の属性別に、個別的要因の主な例を挙げると次のとおりです。
- 住宅地
地勢・地質・地盤等、日照・通風・湿度の状態、間口・奥行・地積・土地形状等、街路の状況や接面街路との関係、交通施設・商業施設・公共施設との距離、嫌悪施設との距離や程度、生活インフラ設備の有無や利用のしやすさ、土壌汚染の有無や状態、公法・私法上の規制や制約など - 商業地
地勢・地質・地盤等、間口・奥行・地積・土地形状等、街路の状況や接面街路との関係、商業地域の中心や主要交通機関との接近性、顧客の流動の状態との適合性、生活インフラ設備の有無や利用のしやすさ、土壌汚染の有無や状態、公法・私法上の規制や制約など - 工業地
地勢・地質・地盤等、間口・奥行・地積・土地形状等、街路の状況や接面街路との関係、従業員の通勤等のための主要交通機関との接近性、輸送施設との位置関係、電力等動力資源の状態や利用のしやすさ、土壌汚染の有無や状態、公法・私法上の規制や制約など - 農地
日照・湿度・雨量等の状態、土壌や灌漑排水の状態、集落や集荷地との接近の程度、災害発生の危険性、公法・私法上の規制や制約など - 林地
日照・湿度・雨量等の状態、標高・地勢等の状態、土壌の状態、木材の搬出や運搬のしやすさ、管理のしやすさ、公法・私法上の規制や制約など
5.不動産鑑定の流れ
次に、不動産鑑定を実際に依頼する場合の流れを順番に見ていきましょう。不動産鑑定は大きく以下のような流れで進んでいきます。
- 不動産鑑定会社に問い合わせる
- 不動産鑑定会社と委託契約を結ぶ
- 不動産鑑定会社に書類を提出する
- 不動産鑑定士による不動産評価の開始
- 調査完了後「不動産鑑定評価書」を受け取る
ここからは、5つのフェーズについて詳しく解説していきます。
5-1.不動産鑑定会社に問い合わせる
まずは、鑑定を依頼する不動産鑑定会社を探します。各都道府県の不動産鑑定士協会に問い合わせれば、地域の不動産鑑定会社を紹介してもらえるほか、無料で相談会を実施しているケースもあります。
また、不動産鑑定士協会のWebサイトにある会員紹介ページや、インターネット上から探すことも可能です。見積もりまでは無料の場合も多いので、できる限り複数の不動産鑑定会社に問い合わせてみるといいでしょう。
5-2.不動産鑑定会社と委託契約を結ぶ
依頼する不動産鑑定会社を決めたら、委託契約を結んでいきます。
具体的には、依頼する不動産鑑定会社と「価格等調査業務依頼書兼承諾書」を取り交わすことで、委託契約が締結されるという流れです。この依頼書兼承諾書は、日本不動産鑑定士協会連合会によって提供されている定型のフォーマットが用いられます。
5-3.不動産鑑定会社に書類を提出する
不動産鑑定会社と委託契約を締結したら、次のような必要書類を不動産鑑定会社に提出します。
- 登記簿謄本(全部事項証明書)
- 公図、住宅地図
- 地積測量図
- ガスや上下水道の配管図
ここに挙げたのは一例であり、物件の種別や状況に応じて不動産鑑定士が取得してくれたり、追加で書類が必要となったりするケースがあります。耳馴染みのない不動産関連の書類の準備を求められる可能性もあるため、わからないときは不動産鑑定士に確認するようにしましょう。
5-4.不動産鑑定士による不動産評価の開始
委託契約を締結し必要書類が揃ったら、不動産鑑定士による鑑定作業がスタートします。不動産鑑定作業では、書面調査と実地調査が行われます。
不動産鑑定士はまず役所や法務局に出向き、対象不動産に関する各種資料を入手します。ここで確認するのは、周辺地域の都市計画や街路に関する書面、謄本や公図といった書面です。
実地調査においては、不動産鑑定士が実際に対象不動産の現場を訪れ、土地や建物、インフラ整備の状態などを調査します。現地の状態と書面調査で取得した資料を見比べながら、物件の実態を細かくチェックしていくのです。
また、実地調査では物件そのものだけでなく、周辺環境や街路の状態なども合わせて確認します。
5-5.調査完了後「不動産鑑定評価書」を受け取る
不動産鑑定士による書面調査・実地調査が完了すると、不動産鑑定士の名の下に「不動産鑑定評価書」が作成・納品されます。不動産鑑定評価書に記載された日付時点の評価額が、その物件の最終的な不動産評価額です。
不動産鑑定評価書の完成までには、調査の実施から10日〜数週間程度、鑑定を依頼してからは1ヶ月程度かかるのが一般的です。
面積の大きな土地や権利関係が複雑な不動産では、さらに長い期間を要する場合もあるため、鑑定を依頼する際はスケジュールに余裕を持つようにしましょう。見積もり時点で納品期間の目安を確認しておくのもおすすめです。
6.不動産鑑定評価の3つの方法
不動産鑑定士が鑑定評価額を算出する際には、「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」という3つの算定方法が用いられます。どれか1つの方法で算出するのではなく、複数の方法による試算価格を組み合わせて、評価額を算出するのが原則です。
それぞれの算定方法について、概要を見ていきましょう。
6-1.①取引事例比較法
取引事例比較法は、鑑定対象物件の近隣エリアで過去に取引された類似物件の事例をベースとして、試算価格を求める算定方法です。
具体的には駅距離や立地条件、土地面積、築年数などの条件が近い複数の物件の平均価格を求め、補正点(鑑定対象物件と類似物件の違いを考慮した調整値)をかけることで試算価格を求めます。
取引事例比較法による試算価格
= 取引事例の1平方メートルあたりの平均価格 × 鑑定対象物件の面積 × 補正点
6-2.②収益還元法
鑑定対象物件が将来生み出すと予想される純利益に着目して、鑑定価格を算定する方法が収益還元法です。不動産が生み出す収益をベースに考える方法であるため、主に賃貸マンションや投資用不動産といった事業に関わる不動産の試算価格を求めるのに使われます。
収益還元法には「直接還元法」と「DCF法」という2つの方法があります。
6-2-1.直接還元法
一定期間に鑑定対象物件から得られる純収益を、還元利回りで割り戻して鑑定価格を求めるのが直接還元法です。直接還元法による試算価格(収益価格)の求め方は次のとおりです。
収益価格 = 一定期間の純収益(家賃収入 − 経費)÷ 還元利回り
6-2-2.DCF法
鑑定対象物件の保有期間に得られる純利益と将来的に売却して得られるであろう価格を、現在価値に割り戻したうえで合計することで、収益価格を求める方法がDCF法です。直接還元法に比べて精度が高い試算が可能ですが、その分計算内容は複雑になります。
6-3.③原価法
鑑定対象物件の土地や建物を新たに取得した際にかかると想定される費用に着目して、試算価格を求める算定方法が原価法です。この方法で求められる試算価格が「積算価格」です。
評価時点で物件を新たに取得・建築するのにかかると考えられる費用を「再調達原価」と呼びます。原価法では、再調達原価から築年数やリフォームの状況などを考慮した原価修正分を差し引くことで積算価格を求めます。
この算定方法は再調達原価に着目したものであることから、建物のある不動産における鑑定で活用されるケースが多くなっています。
7.不動産鑑定が必要な人
不動産鑑定と無料査定の違いについては前に紹介したとおりですが、実際に不動産鑑定が必要となるのはどのような場面なのでしょうか。
不動産鑑定によって発行される「不動産鑑定評価書」は法的効力があるものであり、適正かつ妥当な不動産価格を明らかにすべき場合や、公的機関に不動産価格を提示しなければならない場合に必要となります。
具体的には、次に挙げるような状況にある人は、不動産鑑定を依頼する必要があるでしょう。
7-1.親族間で土地の売買を検討している人
親族間で土地の売買を行う場合において、相場よりも著しく低いと認められる金額で売却してしまうと「みなし贈与」と判断され、贈与税の課税対象とされてしまう危険性があります。
みなし贈与にならないようにするためには、相場を確認し適正な売買価格を設定しなければなりませんが、どれくらいの価格が適正なのか判断がつかないこともあるでしょう。このような場面において、より適正な価格を確認する方法として不動産鑑定を依頼するのも有効です。
7-2.相続で財産分与を行う人
不動産鑑定が必要になる場面として代表的なものの1つが、相続で財産分与を行うケースです。
特に複数人で不動産の相続を受ける場合、各自の財産配分を正確に把握するため、相続対象となる不動産の正しい価値を明らかにしておくのが重要です。無料査定でも不動産の価値をある程度把握することはできますが、相続においては、より正確な価値を知るために不動産鑑定が広く用いられます。
不動産鑑定価格は法的効力を持ち、裁判や調停などにおいても証拠として提示できるため、万が一の事態に備える意味でも不動産鑑定が有効なのです。
7-3.離婚で財産分与を行う人
相続だけでなく、離婚して財産分与を行う予定のある人も不動産鑑定を行うべきと考えられます。
離婚時の財産分与では、基本的に夫婦の共通財産は等分することが求められます。不動産は物理的に等分するのが難しいため、売却して現金化したうえで等分するか、不動産の持分を等分して共有するというのが原則です。
しかし、離婚した後も夫婦どちらかが物件に住み続ける可能性があることや、離婚した人同士で1つの家を共有するのは難しいことを踏まえると、夫婦のどちらか一方が不動産を引き続き所有しつつ、もう一方の持分に応じた現金を支払うというケースが多いでしょう。
この際の公平性を担保するには、公的かつ最も客観的な価格と言える不動産鑑定価格を用いるのが望ましいと言えます。
7-4.土地の評価額を下げて相続税を節税したい人
相続税を節税したいと考えている人も、不動産鑑定を行うのが有効なケースがあります。
通常、不動産に係る相続税は固定資産税評価額や路線価などに基づいて算出されますが、不動産鑑定評価書を税務署へ提出すると、不動産鑑定価格を基準として相続税の計算が行われます。
不動産鑑定価格は書面調査・実地調査に基づき、不動産鑑定士が物件の個別事情を考慮に入れて計算したものです。そのため、不動産鑑定価格による評価額は、個別事情を考慮しない固定資産税評価額や路線価から算出された評価額よりも安くなる可能性があり、結果として相続税を大幅に節税できる場合があるのです。
7-5.不動産を担保に融資を受けたい人
所有する不動産を担保として金融機関から融資を受けたいと考えている人も、不動産鑑定の活用を検討するのがいいかもしれません。
不動産を担保として融資するにあたり、金融機関は「担保評価」を定めます。金融機関はこの担保評価を基準として融資額を決定するのですが、担保評価の計算方法は金融機関によって異なっています。そのため、物件が本来持つ価値よりも低い担保評価しか得られず、思ったほど融資が受けられないといった事態が考えられるのです。
不動産評価鑑定書を金融機関に提出すれば、不動産鑑定価格をベースとして融資額が決定するため、担保評価に基づくよりも多くの融資を受けられる可能性があります。
8.不動産鑑定費用を安く抑える方法
精度が高く、公的な場面にも活用できる不動産鑑定ですが、約20〜30万円というまとまった費用を支払わなければならないのが難点です。そこで続いては、不動産鑑定費用をなるべく安く抑えるために有効な3つの方法について解説していきます。
8-1.同都道府県内の不動産鑑定事務所に依頼する
不動産鑑定費用を抑えるためには、できるだけ物件と同じ都道府県内の不動産鑑定事務所に鑑定を依頼するようにしましょう。
同一都道府県内の事務所であれば、不動産鑑定士が書面調査や実地調査を行うにあたって、役所や現地を訪問する際にかかる交通費を抑えられるからです。こうしたことから、同一都道府県内の依頼は料金が安く設定されている場合が多くなっています。
また、不動産鑑定業界においては、都道府県ごとの縄張り意識が強いとも言われています。自身の都道府県内の顧客を確実に取り込むべく、都道府県内での鑑定依頼がしやすいシステムが整えられているのです。
8-2.簡易鑑定で依頼する
物件の売買や家賃設定の参考程度に依頼するのであれば、正式な不動産鑑定ではなく、簡易鑑定を依頼することで費用を安く抑えられます。
簡易鑑定とは、不動産鑑定事務所ごとの独自の基準によって簡易化された鑑定メニューのことで、調査後に「不動産価格調査書」「不動産価格意見書」といった名称の書類が発行されます。
鑑定メニューが簡略化されているため、正式な不動産鑑定に比べて2〜3割程度、費用が低く設定されているのが特徴です。
ただし、簡易鑑定で求められる鑑定価格は、あくまでも不動産鑑定事務所独自の基準に基づくものであり、正式な不動産鑑定のような法的効力はありませんので注意しましょう。
8-3.相見積もりを取る
不動産鑑定においても、複数の不動産鑑定事務所に相見積もりを取ることで、費用を安く抑えられる場合があります。これは、他の業界と同様、不動産鑑定業界においても事務所間での顧客獲得競争が起こっているためです。
加えて、複数の事務所から見積もりを取ると、対象物件を鑑定するにあたっての費用相場を確認できるというメリットもあります。相見積もりによって相場観を把握しておけば、妥当な価格で不動産鑑定を依頼できる可能性が高まります。
費用面だけでなく、不動産鑑定事務所ごとの特徴やサービスの良し悪しを比較検討できるのもポイント。見積もりを取るだけなら無料という事務所が大半ですので、不動産鑑定を依頼する際には、必ず複数の事務所から相見積もりを取るようにしましょう。
9.不動産鑑定を依頼する時の注意点
最後に、不動産鑑定を依頼するにあたって意識しておきたい注意点を紹介していきます。ここで紹介するのは次の3点です。
- 依頼目的のジャンルに強い不動産鑑定事務所に依頼する
- 不動産鑑定結果は同じではない
- スケジュールを考慮する
9-1.依頼目的のジャンルに強い不動産鑑定事務所に依頼する
弁護士に法律相談をするとき、自身の抱える問題に沿った専門分野を得意とする法律事務所に相談しようと考えるでしょう。
これは不動産鑑定士についても同じことが言えます。不動産鑑定は対象となる物件や目的によって特徴が異なり、不動産鑑定士ごとに得意分野が異なっているのです。このため、自身の依頼目的であるジャンルに強い不動産鑑定事務所に鑑定を依頼したいところです。
遺産相続や離婚による財産贈与といった鑑定の目的はもちろんのこと、鑑定を依頼する物件の種別(住宅、事業用物件、農地、複雑な事情のある物件など)も事務所選びの基準になります。
依頼目的に合った事務所に依頼することにより、適正な鑑定価格を算出してもらえる可能性が高まるでしょう。
9-2.不動産鑑定結果は同じではない
不動産鑑定価格は国の定める「不動産鑑定評価基準」を基準としているものの、最終的な鑑定結果は、価格を算出する不動産鑑定士によって異なります。
本来であれば複数の不動産鑑定事務所に鑑定を依頼し、結果を突き合わせて検討できるのがベストですが、不動産鑑定にはまとまった費用が必要なため、比較検討するのはなかなか難しいのが実態です。
繰り返しになりますが、不動産鑑定価格は法的効力を持つ重要な価格指標ですから、最初の不動産鑑定事務所選びは慎重に行ったほうがいいでしょう。
9-3.スケジュールを考慮する
不動産鑑定は、書面調査・実地調査の実施から不動産鑑定報告書の完成まで1週間〜10日程度、鑑定依頼から報告書の完成までトータルで2〜3週間あるいは1ヶ月程度かかるのが一般的です。依頼から数日で結果が出るようなものではないため、余裕を持ったスケジューリングが必須です。
特に気をつけたいのが、裁判などで不動産鑑定報告書の提出を求められているケース。期日どおりに提出しなければならないので、期日から逆算して必ず間に合うよう、検討に要する期間も考慮に入れて早めに鑑定を依頼するようにしましょう。
10.まとめ
不動産鑑定とは、国家資格である不動産鑑定士が書面調査・実地調査を行うことにより、精度が高く法的効力のある不動産鑑定価格を算定する手続きです。
不動産鑑定によって作成される「不動産鑑定報告書」は、裁判・調停や税務署への提出など、公的な目的にも使用できる信頼度の高い正式書類であり、相続や離婚による財産分与や相続税節税などさまざまな場面で活用できます。
不動産鑑定を依頼するにあたっては約20〜30万円というまとまった費用がかかるため、不動産鑑定事務所は慎重に選ぶよう心がけましょう。
なお、不動産売却を検討するにあたって相場観や参考価格を知りたい場合には、不動産鑑定よりも無料査定が向いています。無料査定を希望するなら、不動産一括査定サイト「おうちクラベル」を上手く活用して、複数の不動産会社に査定を依頼するといいでしょう。