立ち退き料の相場はどれくらい?貸主と借主どちらも納得するために知っておきたいこと

賃借人に貸している建物が古くなって取り壊したい場合などには、賃借人に立ち退きをお願いをしなければなりません。立ち退きをお願いする場合には、賃借人の損害を補填する目的で、立ち退き料の支払いが必要となるケースがあります。

適正な立ち退き料を設定するためにも相場を知っておくことが大切です。記事では、貸主、借主の双方が納得できる立ち退きを実現させるために知っておくべきことを解説します。

目次

1 .立ち退き料はなぜ必要なのか

立ち退き料とは立ち退きをお願いするときの料金です。なぜ立ち退きをお願いする場合に立ち退き料が必要なのか、その理由について詳しく紹介していきます。

1-1 .立ち退きを求めるには「正当事由」が必要

借地借家法では、基本的に賃借人が望めば賃貸契約は更新され、賃借人は住宅に住み続けられることを保証しています。もし、賃貸人が立ち退きを求める場合には「正当事由」が必要と借地借家法28条で定めています。

 正当な事由とは、下記のような要件を総合して判断されます。

  • 建物の使用を必要とする事情(自分で利用したいなど)
  • 建物の賃貸借に関する従前の経過(当事者間のトラブルの有無など)
  • 建物の利用状況及び建物の現況(老朽化など)
  • 建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出(立ち退き料の支払いの提案など)

正当事由は総合的に判断されるため、必ずしも全ての要件が必要というわけではありません。これらのうち「財産上を給付する旨の申し出(立ち退き料の提案)」は、ほかの正当事由の要件の説得力が弱いときに補完的に追加されることが多くあります。

1-2 .立ち退き料は賃借人の請求権ではない

立ち退きには「正当事由」が必要で、正当事由として立ち退き料の提案がなされることもありますが、これは賃借人が賃貸人に対して必ずしも請求できるものではありません。

立ち退き料はあくまでも賃貸人からの自主的な提案です。賃借人に立ち退き料の請求権はありません。

また、下記のような場合などは特に立ち退き料を請求できないといえます。

  • 賃貸契約に立ち退き料を請求しない特約がある場合
  • 定期建物賃貸借契約で賃貸期限が決まっている場合

1-3 .立ち退き料に相場はないと言われている

立ち退き料は立ち退きを要請する事情によって変動するため、相場がないといわれています。

賃貸人から提示された正当事由の説得性が強ければ立ち退き料が不要なケースもあります。反対に、正当事由が弱ければ高い立ち退き料を支払わなければ立ち退きを要請できないこともあります。

立ち退き料の金額について言及された判例もあるので、目安となる金額は後ほど紹介します。

2 .立ち退きの申し入れが必要となるケース

借地借家法で賃借人の権利がしっかりと保護されているため、立ち退きの申し入れは簡単ではありません。しかし、立ち退きの申し入れが必要となるケースがあります。以下で立ち退きの申し入れが必要なケースについて具体的に解説します。

2-1 .築年数が古い建物を建て替えたいとき

貸している建物が老朽化して建て替えたいときに、立ち退きの申し入れをするケースが多くあります。

建物の老朽化による建て替えの必要性も「正当事由」の一例としてよく挙げられますが、老朽化だけですぐに「正当事由」と認められるわけではありません。立ち退き交渉に当たって、一定額の立ち退き料を支払う提案を追加的に行うことが少なくありません。

2-2 .持ち家を自己使用したいとき

貸し出していた持ち家を自己使用したいときも立ち退きの申し入れが必要となります。

持ち家を自己使用したいというのは、例えば、遠方に住んでいた大家が、貸し出していた持ち家を自宅として利用したいといったケースです。

この大家が持ち家に住むといったケースは「自己使用の必要性がある」と、立ち退きの正当な理由として認められるケースが多くあります。正当な自由と認められやすいケースであるものの、立ち退き料を支払うか支払わないかはケースバイケースです。

2-3 .再開発の対象となったとき

貸し出している物件が再開発地域に含まれている場合も、賃借人に立ち退きを申し入れる必要のあるケースです。

賃貸物件が再開発地域に含まれ、賃貸人が再開発に賛成して建物を取り壊したい場合には、賃借人に立ち退きを要請することがよくあります。

再開発が正当事由として認められるかどうかは、判例もさまざまです。判例では、十分な立ち退き料の提案とともに「正当事由」と認められた場合や、再開発の計画の実現性が疑われたために「正当事由」と認められなかったケースとがあります。

3 .このような場合には立ち退き料が必要

立ち退き料が必要となるのは、正当事由としての説得性が弱い場合です。立ち退き料が必要となるケースにはどのようなケースがあるか、以下で具体的に紹介します。

3-1 .大家都合で退去を求める場合

大家が居住目的、または営業目的で物件を自己使用する場合は、立ち退き料が必要です。

例えば、大家が、現在住んでいる住宅が手狭になり、貸していた物件に住み替えたいと退去を求めるような場合です。判例では、立ち退き料を支払うことで正当事由と認められているケースがあります。

ただし、正当事由と認められるのは、賃借人に転居する経済的能力がある場合や、賃借人が現状物件を使っていない場合などです。賃借人が建物内に店舗を構えているなど、貸借人にとって建物の必要性が高いと思われるケースでは、立ち退き料を支払う以前に正当事由と認められなかったケースもあります。

3-2 .マンションや店舗の建て替えの場合

マンションや店舗を建て替えたい場合も、立ち退き料が必要です。

建て替えの理由が、建物の老朽化であっても、極端に老朽化して住民に重大な危険がおよぶような状況でなければ基本的に立ち退き料が必要といえます。

マンションなどの住居の場合は、賃借人が病気を抱えていて転居の負担が大きい場合や、転居することで家賃が上がる見込みである場合などは立ち退き料が高くなる傾向です。

店舗の場合は、賃借人は立ち退きにより常連客を失う恐れがあるため、その補償として比較的高額の立ち退き料が必要です。

3-3 .再開発による立ち退きを依頼する場合

所有する物件が再開発の対象となった場合、建物を取り壊すために賃借人に退去を要請することがあります。この場合も、再開発というだけでは正当事由とは認められにくく、立ち退き料の支払いが必要となります。

再開発による立ち退きの場合も、賃借人が病気を抱えている場合や、賃借人が店舗として物件を利用している場合など、賃借人にとって物件の必要性が高い場合は立ち退き料が高くなります。

4 .退去を要請しても立ち退き料が不要なケース

賃借人に退去を要請しても立ち退き料が不要となるケースもあります。以下では立ち退き料が不要なケースについて具体的に紹介します。

4-1 .賃借人側に賃貸契約違反がある場合

賃借人側に賃貸契約違反がある場合は、立ち退きを要求するにあたって立ち退き料は不要です。

賃貸契約違反とは、例えば下記に該当するようなものです。

  • 家賃の長期滞納
  • 事前の承諾なく第三者に転貸している
  • 故意または重大な過失により物件に損害を与えている
  • 公序良俗に違反する目的や反社会的な用途に使用している

賃借人の契約違反を理由に立ち退きを要求する場合は、立ち退き料を支払わなくていいどころか、遅延損害金や違約金、原状回復費用などを請求することができます。

4-2 .定期建物賃貸借契約が満了した場合

物件の賃貸契約が「定期建物賃貸借契約」になっており、その契約が満了した場合には、立ち退きとなっても立ち退き料を支払う必要はありません。

建物の賃貸借契約には、賃貸借期間の設定方法により、下記の2つの契約形態があります。

  • 普通賃貸借契約(一般借家契約):1年以上の賃貸借期間が定められており、契約更新が可能な契約。賃借人が解約を申し出るまで更新される。
  • 定期賃貸借契約:契約期間満了となったら終了する契約。賃貸人が賃貸借期間をあらかじめ自由に設定できる。

期間の定めのある定期賃貸借契約であれば、期間満了後に退去してもらう契約のため、立ち退きにあたっての立ち退き料は不要です。

4-3 .建物が極端に老朽化して重大な危険がある場合

建物が極端に老朽化して重大な危険がある場合は、立ち退き料が不要となることがあります。

過去の判例で、建物が極端に老朽化して重大な危険があるとして、立ち退き料を支払わなくても「正当な理由」と認められたケースがありました。(2016年9月6日東京地方裁判所判決等)

ただし、このケースでは、賃借人が交渉に応じず不合理な行為を繰り返していたなどの特殊事情も合わせて判断されているため、例外的なケースとして捉えられることもあります。

4-4 .競売でオーナーが変わったケース

競売で物件を購入した場合、物件の前の居住者が退去していないこともあります。こうしたケースで退去を要請する場合には、立ち退き料は不要です。

前の居住者は、競売により物件の所有権を失っているため、競売物件から立ち退いて購入者に引き渡す義務があります。このため、立ち退き料を支払う必要はありません。

前の居住者が立ち退かない場合は、物件の購入者は法的手段を行使して、強制的に追い出すことができます。具体的には裁判所へ引渡命令を申し立て、裁判所から引渡命令の決定を受けて、強制執行となります。強制執行できるため、立ち退き料は不要です。

5 .立ち退き料の内訳は?

立ち退き料を考えるときは、内訳をふまえて考える必要があります。立ち退き料の内訳には「移転費用の補償」「借家権に対する補償」「営業利益の補償」と大きく3つあります。以下で詳しく紹介します。

5-1 .移転費用の補償

移転費用の補償とは、立ち退き前の物件から新しい物件へ移転するためにかかる費用の補償のことです。移転のための費用であれば何でも立ち退き料に含まれるわけではなく、場合によっては減額できることもあります。以下で詳細について見ていきましょう。

5-1-1 .引越費用

賃借人が新居に移転するための引越費用は、立ち退きの要請がなければ発生しなかったもののため、立ち退き料に含まれます。

引越費用には、引越代、梱包、運送、保険、分解取付調整料金などが含まれます。

なお、ここでいう引越費用は、あくまで、立ち退き前の生活状況を転居先に移すために必要なものと考えられています。そのため、不用品の処分費や家電リサイクル費用といったものは含めないこともあります。

5-1-2 .不動産会社への仲介手数料

賃借人が、新居確保のために不動産会社を利用した場合は、不動産会社に支払う仲介手数料も立ち退き料に含めます。仲介手数料も、立ち退きの要請がなければ発生しなかったものだからです。

なお、仲介手数料の金額の目安としては、法律で定められてる賃貸物件の仲介手数料の上限の「家賃1カ月分+消費税」が参考になります。

5-1-3 .新居の敷金・礼金

賃借人が新居確保のために支払う敷金・礼金も、立ち退き要請がなければ発生しなかったもののため、立ち退き料に含まれます。

敷金・礼金は一般的に下記のように立ち退き料に含めます。

  • 敷金:転居前の物件の敷金との差額
  • 礼金:全額

敷金については、転居前の物件の敷金が基本的に全額返還されるため、立ち退き料としては、新居の敷金と返還される敷金との差額だけ含みます。なお礼金は全額、立ち退き料に含みます。

5-1-4 .家賃が上がるときはその差額分

賃借人の新居の家賃が転居前の家賃よりも上がる場合には、転居前の家賃との差額分を立ち退き料に含みます。

立ち退き前と同水準の住環境を維持できる転居先を確保しようとしても、同じ家賃では確保できない場合があります。

立ち退き前と同水準の住環境を保証するために、新居の家賃が転居前よりも上がった場合の家賃の差額は、立ち退き料として支払われます。

5-1-5 .通信回線の移転費用

立ち退き前と同じインターネット・電話などの通信環境を維持するために必要な通信回線の移転費用は、立ち退き料に含まれます。これらの通信回線の移転費用は、立ち退き要請がなければ発生しなかったものだからです。

なお、電気・ガス・水道などの移転によって発生した開設費用なども同じように、通常は立ち退き料に含まれます。

5-2 .借家権に対する補償

借地権に対する補償も、立ち退き料に含まれます。

借地権とは、物件を借りる際に生じる賃借人の権利のことです。借地権は、賃借人が不当に退去させられることがないように賃借人の保護を目的に設定された権利です。立ち退きを要請する際には、借地権の評価額である借地権価格を補償する必要があります。

とはいえ、借地権は住み心地などあいまいな居住権を指すため、具体的な価格を算定することが難しいといえます。そのため、借地権に対する補償は、実質的に移転費用の補償に含まれると解釈することが一般的です。

5-3 .営業利益の補償

店舗などに立ち退きを要請する場合には、店舗の営業利益の補償も立ち退き料に含みます。

なぜなら、店舗の場合は、立ち退きで場所が変わることによって、既存顧客を失ったり、店舗の視認性が悪化したりして大きな営業損失を被ることがあるからです。移転による休業期間中の収益の減少や、固定的な経費、人件費などが立ち退き料に含まれます。

住宅や事務所の立ち退きの場合は、営業利益の補償は発生しません。このため、店舗の場合は、住宅や事務所の立ち退きの場合よりも、立ち退き料が高くなる傾向です。

6 .立退料の相場はいくら?

立ち退き料の金額は、立ち退きを要請する際の正当事由の内容によって異なります。ただし目安となる金額はあるため、下記で立ち退き料の相場を紹介します。

6-1 .一軒家の相場

一軒家について立ち退きを要請する場合、立ち退き料の相場は、家賃の約10ヶ月分といわれています。ただし、法定の算出方法ではなく、広く使用されている算出方法の1つです。

例えば、家賃10万円の場合の立ち退き料の目安は約100万円となります。同じ家賃10万円の場合で、個別の費用を積み上げて計算した場合と比較してみましょう。

【家賃10万円の戸建てからマンションへ転居した場合】立ち退き前の戸建ての家賃:10万円新居のマンションの家賃:12万円引越代金:10万円仲介手数料・礼金・敷金:それぞれ家賃の1ヶ月分通信環境移設費用:1万円火災保険:2万円

上記のケースで、立ち退き料を計算すると下記のようになります。なお家賃差額の補償については2年分を対象とします。

立ち退き料=(12万円-10万円)×24ヶ月+10万円+12万円×3ヶ月+1万円+2万円=97万円

ほぼ、家賃10万円の10ヶ月分に相当していることが分かります。

6-2 .アパート・マンションの相場

アパート・マンションの立ち退き料の相場は、過去の判例を参考にすると家賃5~10万円の場合、大体40万~200万円が目安となります。

実際の交渉場面では、「家賃の6ヶ月分」と引越費用を立ち退き料として提案することが多くあります。算定の考え方は法定の考え方ではなく通例で使われているものです。

計算結果は、最終的に100万~200万円程度となることが多くなっています。

6-3 .店舗・テナントの相場

店舗・テナントの立ち退き料の相場は、判例を参考にすると、家賃10万円前後の店舗でも立ち退き料は1,000万〜1,500万円ほどとなっています。

店舗・テナントの場合は、通例で「店舗の賃料の2〜3年分程度」を目安に立ち退き料を提案することもあります。実際の交渉では、新店舗への移転費用や移転により生じる営業損失の補填を考慮して決められます。

6-4 .事務所・オフィスの相場

事務所・オフィスの立ち退き料の相場は、過去の判例を参考にすると、家賃10万〜20万円の場合、大体300万〜400万円となっています。

事務所・オフィスの場合は、通例で「事務所の賃料の1年分」を目安に立ち退き料を提案することが多くあります。店舗と比べると、既存顧客を失う恐れが低いのと、特殊な設備を構える必要がないため、立ち退き料が安くなっています。

7 .一般的な立ち退きの流れ

次に、一般的な立ち退きの流れについて紹介します。立ち退きを少しでもスムーズに進めるためにも流れを把握し、事前準備をしておきましょう。

7-1 .立ち退きの申し入れ

賃貸契約に定めている期間満了の6ヶ月〜1年前には立ち退きの申し入れをします。

法律上、賃貸人が契約更新をしない場合には、賃貸契約の期間満了の6ヶ月〜1年目に更新をしない旨の通知をする必要があります。あるいは、解約を申し入れる場合は6ヶ月前に通知する必要があります。

更新拒否も解約申し入れも「正当な事由」があるときのみ可能となっています。そのため、通知をするときには、立ち退きの理由も伝えなければなりません。立ち退きまで交渉に時間がかかることもあるため、なるべく早めに立ち退きの申し入れをするようにしましょう。

7-2 .立ち退きに関する条件の提案

立ち退きの申し入れをした後は、立ち退きに関する条件を提案していきます。

立ち退きをスムーズに進めるためにも、例えば、賃借人に新居の候補を紹介したり、引越費用の負担や残りの契約期間分の家賃の割引を提案したりするとよいでしょう。

賃借人の住み替えプランなどの作成を不動産会社に依頼している場合は、不動産会社と相談しながら提案を進めていきましょう。

7-3 .立ち退き料の交渉

賃借人が立ち退きに応じてくれる場合は、立ち退き時期や立ち退き料について具体的な話し合いを進めていきましょう。

立ち退き料については、あらかじめ賃貸人から提案する場合と、この段階で、賃借人から立ち退き料の要望があって支払うことを決めるケースとがあります。

立ち退き料を支払うことで合意した場合には、いくらにするのかの話合いを賃借人と進めていきます。

7-4 .物件の明け渡し

立ち退き期日までに、物件が明け渡されます。立ち退き料は原則として物件の明け渡しの日に支払います。

ただし、賃借人が新居に引っ越すための費用のやりくりに困っている場合などには、賃借人の経済的負担を軽減するために、事前に支払うこともあります。

賃貸人と賃借人が合意すれば、立ち退き料を渡す日は物件の明け渡し日でなくても問題ありません。

8 .立ち退き拒否を回避するための事前対策

立ち退きの流れについて紹介しましたが、実際には立ち退きをお願いしても賃借人に立ち退きを拒否されることもあります。そこで次に立ち退き拒否を回避するための事前対策について紹介します。

8-1 .定期借家契約に切り替える

もし、将来的に立ち退きを依頼することが現時点でわかっている場合には、現在の賃貸契約を「定期借家契約」に切り替えることがおすすめです。

賃借人の希望次第で契約が更新できる「普通賃貸契約」と異なり、「定期借家契約」の場合は、契約期間満了後、立ち退き料なしで退去してもらうことができます。

ただし、契約切り替えの申し入れは、既存の契約期間が終了する6ヶ月〜1年前までに行わなければなりません。切り替えに同意してもらえない場合には、家賃の減額や敷金の返還などを交渉材料に切り替えに同意してもらうようにしましょう。

8-2 .定期借家契約は借り手が付きにくい

「定期借家契約」で新たに賃借人を募集する場合は、なかなか借り手が見つからない可能性があります。

定期借家契約は更新を前提としない契約で、契約満了後すぐに引越しをしなければならないため、あまり人気がありません。

定期借家契約で入居者を確保するためには、相場よりも家賃を下げなければならないこともあります。それでも、数年後に建て替えや自己使用の予定がある場合は、立ち退きの手間が省けるため有効な手段の1つです。

9 .賃借人が立ち退き料を交渉するときのポイント

立ち退き料に関する交渉のポイントについては、賃借人・賃貸人とで異なります。交渉をスムーズに進めるためには相手側の視点についても理解しておくことが大切です。まずは賃借人側から見た立ち退き料を交渉するときのポイントについて解説します。

9-1 .正当事由を確認する

賃貸人から立ち退きの申し入れがあった場合には、正当事由があるかどうかチェックするようにしましょう。正当事由の内容によっては、立ち退き料の金額に影響します。

立ち退きを要請する理由には次のようなものが挙げられます。

  • 建物の老朽化による建て替え
  • 賃貸人に当物件が必要となる事情ができた
  • 貸借人が賃貸契約違反をしている

例えば、「建物の老朽化」だけが理由の場合は、正当事由としては弱いといえます。通常は立ち退き料と合わせて立ち退きに合意するケースが大半です。「賃借人に物件が必要となる事情ができた」という場合も同様です。

なお、賃借人が家賃を長期間支払っていないなど契約違反をしている場合は、立ち退き料の話し合いの余地はないといえます。

9-2 .立ち退きによって生じる負担について具体的に計算する

立ち退きによって生じる負担について具体的に計算しましょう。

立ち退きの際には、立ち退きに際して発生した費用を立ち退き料として負担してもらえる可能性があります。

引越費用・仲介手数料・保険料など立ち退きによって発生すると想定される負担額について計算しましょう。引っ越し業者から見積もりを取った場合は見積もりのコピーを賃貸人に渡すなどして立ち退き際して発生する具体的な金額を伝えることが大切です。

9-3 .物件の必要性を主張する

賃借人にとって物件の必要性が高いほど、立ち退きの要求を退けられたり、立ち退き料が高くなったりする傾向があります。

例えば、介護が必要な同居人がいて引っ越す負担が大きい、子供の通学事情で引越しができないといった物件の必要性についてはしっかりと主張するようにしましょう。

金額では表せない要因についても正当事由に影響するため、伝えておくことが大切です。

9-4 .交渉時の取り決めは書面に残す

賃貸人と賃借人とで話し合って取り決めた内容については、書面で残しておくようにしましょう。後で、言った言わないでもめないためにも証拠を残しておくことが大切です。

引越し費用を支払うと言われた場合でも、知人に手伝いを依頼した場合の報酬を含めてもらえるのかどうかなど細かい点をしっかりと詰めておくようにしましょう。

9-5 .弁護士に交渉を依頼する

立ち退きたくない場合や、賃貸人が強引に話を進めようとして困る場合などには、弁護士に依頼する方法もあります。

弁護士に依頼すると、素人では対処しにくい立ち退きの「正当事由」について、的確な反論ができます。賃貸人に対して、立ち退き要請を断念させたり、立ち退き料を増額させたりするための適切な議論を進めてもらえます。

10 .賃貸人が立ち退き料を交渉するときのポイント

次に、賃貸人が立ち退き料を交渉するときのポイントを紹介します。交渉をスムーズに進めるためにも先に紹介した賃借人の交渉ポイントとあわせて確認してください。

10-1 .綿密な計画を立てる

立ち退きを申し入れるときは、事前に綿密な計画を立てましょう。

集合住宅などを建て替える際は、入居者が多いほど立ち退き料が高くなる可能性があります。入居者の数から立ち退き費用を推計し、どのタイミングで立ち退きの交渉を始めるのがよいか検討するようにしましょう。

なお、立ち退きの通知は早ければ早いほど入居者も準備をすることができ、結果として大きなトラブルを避けることができます。

建て替えが決まったら新規入居は断るか、定期借家契約での契約にするなど、計画的に準備を進めることが大切です。

10-2 .立ち退きの正当事由をチェック

賃貸人が立ち退き要求をする場合、正当事由の説得力が強ければ強いほど、立ち退き料の支払額は少なくてすみます。

立ち退きを依頼することについて正当事由はあるか、またどの程度強いかについてチェックしておくようにしましょう。立ち退きの正当事由が弱いときは、それなりの立ち退き料の用意が必要となります。

立ち退き料などの準備のためにも正当事由を確認しておきましょう。

10-3 .立ち退きの申し入れは自ら行う

立ち退きの申し入れや立ち退き料の交渉は、気の重い作業ですが、自ら行ったほうがよいといえます。

立ち退きの申し入れは、賃借人にとっても非常に大きな負担を強いる要求のため、誠意をもって自ら対応することで話がスムーズに進みやすくなります。

なお、賃貸管理会社に立ち退き交渉を任せているケースも見られますが、弁護士資格のない賃貸管理会社が報酬をもらって立ち退き交渉を行うことは、非弁行為となります。弁護士法違反となるため、賃貸人自らが行うようにしましょう。

10-4 .立ち退き理由について丁寧に説明する

立ち退きを求める理由について、賃借人に丁寧に説明するようにしましょう。

丁寧に時間をかけて説得することで、賃借人が立ち退きに納得し、立ち退き料不要で退去してくれるケースもあります。

基本的に、賃借人は借地借家法により契約更新をする権利を持っているため、立ち退きはあくまで賃貸人のお願い事項であるということに注意しましょう。お願いするというスタンスで、賃借人側の事情についてもしっかりと耳を傾け、無理を押し付けないようにしましょう。

10-5 .余裕を持ったスケジュールを提案する

立ち退きのスケジュールについては、余裕を持ったスケジュールで提案するようにしましょう。

賃借人にも事情があるため、立ち退きの申し入れをしたからといってすぐに退去できるとはかぎりません。余裕を持ったスケジュールで提案することで、賃借人も転居先やスケジュールなどについて考える余裕ができ、立ち退き要求を受け入れてもらいやすくなります。

また、賃借人が立ち退き要求に応じない場合などは交渉に時間がかかる可能性もあります。

立ち退きを依頼する場合は、なるべく早めに提案をし退去までスケジュールに余裕を持たせることが大切です。

10-6 .譲歩のポイントや交渉決裂の場合の代替策も考えておく

立ち退きの交渉が難航したときに備えて、譲歩のポイントや交渉決裂の場合の代替策を考えておくことが大切です。

賃借人はできるだけ多くの立ち退き料をもらいたいという思いから、なかなか立ち退きに応じず、交渉が難航することがよくあります。

その場合、賃貸人は要求をしっかり伝える一方で、立ち退き料のアップなど妥協できるポイントをあらかじめ決めておくようにしましょう。

そして、交渉が決裂した場合には、裁判に踏み切るなり、立ち退き自体を諦めて別の手段を取るなど代替策を考えておくことがおすすめです。

10-7 .口頭ではなく書面で解決案を提示する

立ち退きの交渉では、口頭ではなく書面で解決案を提示するほうがよい場合が多くあります。

立ち退きの交渉では、当事者同士が感情的になってしまい、話し合いが難航することが少なくありません。

そうした場合は、その場の勢いで口頭で提案するのでなく、書面で解決策を提示することによって、賃借人が冷静な状態のときに、賃貸人側の主張を伝えることができます。

また、立ち退きに関する条件や協議した決定事項などを文書にして残すことで、言った言わないのトラブルを避けることもできます。

10-8 .立ち退き交渉は相手を出し抜くための手段ではない

立ち退き交渉は相手を出し抜くための手段ではないことに注意して、交渉を行うようにしましょう。

賃貸人としては、できるだけ立ち退き料を安く抑えたいという気持ちがあるため、相手を出し抜いて自分の要求を通そうとしてしまうことがあります。しかし実際のところ、自分のことだけを優先させても、話し合いはうまくまとまりません。

交渉はお互いにとって最もよい妥協点を探るために行うものと心得て、話し合うようにしましょう。お互いにとっていい結果となる交渉をすることが、結果的には自らの利益にもつながります。

10-9 .必要であれば弁護士に依頼をする

賃借人にはさまざまなタイプの人がいるため、立ち退きの交渉が一筋縄ではいかない場合もあります。

立ち退きの交渉が難航したり、あまりに時間がかかったりする場合には、弁護士に依頼することも1つの手段です。

弁護士に依頼する場合は、着手金が約30万円、報酬が依頼人が得た収入の10%〜20%と費用はかかるものの、必要であれば依頼するようにしましょう。

11 .立ち退き料は退去をお願いする「正当事由」によって決まる

立ち退き料の相場について解説しました。

立ち退き料の相場は下記のとおりです。

  • 一軒家の場合:家賃の約10ヶ月分
  • アパート・マンションの場合:家賃の6ヶ月分
  • 店舗・テナントの場合:家賃の2年~3年分程度
  • 事務所・オフィスの場合:家賃の1年分

立ち退き料は、賃借人に退去をお願いする「正当事由」を補完するものです。正当事由の内容によって金額は上下します。

なお、立ち退き料が必要となるケースは下記のような立ち退き理由である場合です。

  • 大家都合で退去を求める場合
  • マンションや店舗の建て替えの場合
  • 再開発による立ち退きを依頼する場合

立ち退きの交渉において、賃貸人が交渉をスムーズに進めるためには、下記ポイントを押さえておくことがおすすめです。

  • 綿密な計画を立てる
  • 立ち退きの正当事由をチェック
  • 立ち退きの申し入れは自ら行う
  • 立ち退き理由について丁寧に説明する
  • 余裕を持ったスケジュールを提案する
  • 譲歩のポイントや交渉決裂の場合の代替策も考えておく
  • 口頭ではなく書面で解決案を提示する
  • 立ち退き交渉は相手を出し抜くための手段ではない
  • 必要であれば弁護士に依頼をする

立ち退きを成功させるためには賃借人の立場にも配慮して交渉を進めることが大切です。これらの情報を、立ち退きを成功させるために役立ててください。

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