親や親戚が元気な間は、所有している土地などの財産に関する相続のことを真剣に考える人は多くないかもしれません。しかし、特に土地や家屋など不動産については分割が容易ではなく、評価額も大きいことから相続方法や相続税の支払いなど、トラブルの種となることもあります。
そこで今回は、土地を相続するのに必要な手続きの基本的な流れや相続税について解説します。全体像を把握しておけば、将来的にもしも土地や家を相続することになっても、あせることなく、またトラブルのリスクを減らすことができるはずです。
1.土地を相続するまでの4つの手続き
土地の相続が発生してから相続登記が完了するまでの手続きについて、それぞれの概要を説明します。
1-1.ステップ①:遺言書と相続財産を確認する
親や兄弟など近しい家族が亡くなった場合、悲しみのなか、葬儀などの各種手続きで忙しくなります。また、もしも亡くなった方が現金や土地などの財産を所有していた場合、被相続人が亡くなったその日から遺産相続は開始されます。相続を放棄することも選択できますが、相続放棄を申告するには3カ月という期限があり、また相続税の納付が遅れてしまうと追徴課税などが発生するなど、慌ただしいなかでも諸手続きを行う必要があります。
相続が発生したらまずは遺言書と相続財産を確認します。遺言書で土地や現預金、株式や自動車などの各種資産の相続について指定されていれば、これに従う形で相続人が決定され、各手続きを行っていきます。
詳細については、後の「ステップ①:遺言書の検認と相続税の必要性」でご説明します。
1-2.ステップ②:必要書類を集める
被相続人の財産のなかでも土地については、最終的に不動産の名義変更を行う相続登記の申請などの手続きも行わなければならないため、多くの書類を作成したり集めたりする必要があります。
用意しなければいけない書類には、大きく被相続人の書類、相続人の書類、そして相続の発生する土地に関する書類の3種類があります。自分で作成するもの、法務局で取得するもの、市区町村の役所で取得するものと、複数の場所へ直接訪問したり取り寄せたりして用意します。
具体的な書類の種類と名称、取得場所については「ステップ②:相続登記に必要な書類一覧」でご説明します。
1-3.ステップ③:土地の分配方法について相続人同士で協議する
被相続人が遺言書を用意していなかった場合、相続財産の分配方法について相続人同士で「遺産分割協議」と呼ばれる話し合いを行い、話し合った結果を「遺産分割協議書」にまとめて相続人全員が実印を押すことになります。
遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならず、一人でも欠けていれば協議自体が無効とされてしまいます。実際に名義の変更や相続税の支払いを実施した後に、協議のやり直しが発生すると、さらに費用と時間がかかってしまうため、慎重に協議の手続きを進めます。相続人全員の話し合いが成立しないのであれば、「遺産分割調停」を行い、相続人を決定します。
遺産分割協議の概要ややり方、遺産分割協議書の書き方とテンプレートについては、「ステップ③:遺産分割協議」でご説明します。
1-4.ステップ④:相続登記申請を行う
遺言書ないし遺産分割協議によって相続内容が決まり、土地を相続することが正式に決定したら、相続する土地の相続登記申請を行って名義の変更を行います。必要な書類がまとまったら法務局へ提出し、法務局から「登記識別情報通知」という書類が発行されたら相続登記手続きは完了です。書類提出後1~2週間ほどかかります。
相続登記に必要な書類や費用については、後で「ステップ④:相続登記申請の必要書類と期限」でご説明します。
2.ステップ①:遺言書の検認と相続税の必要性
相続が発生した場合、はじめに相続人と相続財産を確認します。その際に重要なのが遺言書の検認です。
2-1.遺言書の種類
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
・自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者(被相続人)が自分で日付・氏名と本文のすべてを手で書き、捺印したものを指します。遺言者以外が代筆したものや、パソコンで作成されたものは直筆遺言書として認められません。
・公正証書遺言
公正証書遺言は、より厳密な手続きを経て作成される遺言書です。遺言者が公証人と証人2名以上の前で遺言内容を口頭で語り、内容が遺言者の真意と相違しないことを確認したうえで公証人が文書としてまとめ、遺言者と証人たちに内容を確認させてから作成します。遺言者の自書が不要で、原本が公証役場に保管されることから、安全性が高いとされています。
・秘密証書遺言
秘密証書遺言は、内容を被相続人や公証人などには明かさず、遺言の存在だけを公証人に確認してもらう方式を指しています。遺言者本人以外は内容を見ることができず、秘匿性が高い一方で、確実性の低さから利用率が低くなっています。
2-2.検認の重要性と大まかな手続き
自宅や金庫などで保管されていた遺言については、改ざんや破損などがないことを証明するために「検認」という手続きが必要となります。遺言者(相続人)が亡くなったら、遺言書を家庭裁判所に提出して、問題がないことを確認してもらうわけです。
検認は自筆証書遺言と秘密証書遺言を対象とするものです。公正証書遺言は、公証人立ち会いのもとで作成され公証役場に保管されることから、検認手続きを必要としません。
また、自筆証書遺言も法務局で保管できるため、この場合も検認手続きを省略することができます。この法務局保管制度は2020年に施行されたばかりで、これから利用者が増えることが予想されています。
検認のためには、検認申立書を作成したうえで遺言者の亡くなるまでの全戸籍謄本、全相続人の戸籍謄本を用意します。検認の申し立てをすると、全相続人に対して家庭裁判所から検認期日が通知され、少なくとも申立人は、必ず検認期日当日に家庭裁判所へ赴かなければなりません。申し立てから検認期日までは、1~2カ月程度の期間が置かれます。
検認完了後、家庭裁判所に「検認済証明書」という書類を申請して遺言書に添付してもらいます。この検認済証明書付きの遺言書にそって、土地の名義変更や預貯金の払い戻しなどの手続きを進めることになります。
2-3.相続財産調査とは?
相続するにあたって、相続税が発生する可能性があります。そのために、はじめに被相続人の財産を調査しなければなりません。
具体的には預貯金は銀行、有価証券は証券会社や銀行などをあたって調査し、不動産については、被相続人へ郵送される固定資産税通知書などで評価額を確認します。もしも固定資産税通知書が保管されていない場合は、不動産のある自治体の役場に被相続人名義の固定資産評価証明書を請求し、取得することで相続対象の不動産の評価額を把握できます。
こうした相続財産の調査には、手間と時間がかかります。相続人自身で調査するのが現実的ではない場合は、弁護士や税理士、司法書士などに代行を依頼することができます。
2-4.土地を相続する場合の相続税はどれくらい?
相続税は、課税対象となる相続財産の合計額から基礎控除額と負債額・葬儀費用などを差し引き、法定相続人同士で按分した後の課税遺産額に税率をかけることで、相続税額を算出することができます。
基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数で求められます。
法定相続人が2人であれば、4200万円が基礎控除額となり、相続財産額が4200万円以上であれば相続税が発生し、4200万円未満であれば相続税は発生しません。
相続税の税率は以下の通りです。
税遺産額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | なし |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
仮に自分の相続する土地の評価額が5000万円だったとすると、相続税額は800万円(5000万×20%-200万)と計算できます。
3.ステップ②:相続登記に必要な書類一覧
土地の相続手続きは、最終的に相続登記を行い、土地の名義を変更することで完了します。そのためには、戸籍謄本や不動産の固定資産評価証明書など、多くの書類を用意することが求められます。
3-1.被相続人の書類
土地を相続する場合、以下のような被相続人の書類を取得する必要があります。
必要書類 | 取得場所 |
---|---|
被相続人の出生~死亡までの連続した戸籍謄本 | 被相続人の最終本籍地の役場 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 被相続人の最終住所の役場 |
被相続人が結婚や養子縁組などによって転籍を経験している場合は、転籍前の本籍地の役場にも戸籍謄本の取得申請を行います。
3-2.相続人の書類
相続人に関連する必要書類は、以下の通りです。
必要書類 | 取得場所 |
---|---|
戸籍謄本(相続人全員分) | 各相続人の本籍地の役場 |
印鑑証明書(相続人全員分) | 各相続人の住所の役場 |
住民票(不動産取得者の分) | 不動産を相続する人の住所の役場 |
相続関係説明図 | 作成 |
このうち相続関係説明図は、なければならない必須書類ではありません。
ただし、提出した戸籍謄本の原本を還付してほしいときや、相続関係が複雑で相続人同士の関係を整理する必要があるときには役に立つ書類です。
3-3.土地(不動産)の書類
不動産に関連する必要書類として、以下のようなものがあります。
必要書類 | 取得場所 |
---|---|
固定資産評価証明書 | 不動産のある市区町村(東京都なら都)の役場 |
被相続人が亡くなった年度ではなく、手続きを行う年度の固定資産評価証明書が必要です。
4.ステップ③:遺産分割協議
遺言書が存在しない場合や、法定相続分・遺言指定内容と異なる遺産分割を希望する場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。ここでは、遺産分割協議と遺産分割協議書の書き方についてご説明します。
4-1.遺産分割協議とは?
遺産分割協議とは、その名の通り遺産の分割方法について行われる話し合いのことです。
協議しなくても民法に規定された法定相続に従えば遺産分割自体は可能ですが、それと異なる分割方法・割合にすることを相続人全員が希望するのであれば、遺産分割協議を行うことが必要です。遺産分割協議の結果を書類にまとめたのが遺産分割協議書であり、相続登記の申請の際に提出することになります。
遺産分割協議は、相続人全員が参加して行われなければなりません。一人でも欠けていれば無効です。ただし未成年の相続人は、代理人を参加させることも可能です。
仮に遺産分割協議が合意に達しないようであれば、家庭裁判所で遺産分割調停を行います。調停委員が相続人の間に入ってヒアリングを行うとともに、裁判官(家事審判官)が解決策を提案して解決を図ります。調停も不成立であれば、裁判所が分割方法を指定する審判手続きに入ります。
4-2.遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書には、正確な相続財産の内容と被相続人および相続人の氏名を記載することで、誰が・どのような財産を・どのように相続することになるか明確に記載します。相続人全員の署名と実印も必要です。また、協議を行った日付を協議書に明記します。
遺産分割協議書は、特に法的に定められた書き方のルールはありません。手書きでもパソコンで作成しても、また縦書きや横書きでも問題はなく、遺産分割を決定するのに必要な内容が記載され、その内容について相続人全員が同意していることが示されていれば、遺産分割協議書として認められます。
ただし、実務上、相続人が法律の専門家ではない場合、すべての書類を自分で作成するのは時間がかかることから、弁護士や司法書士などが公開しているテンプレートを利用したり、法務局で公開されている遺産分割協議書の記載例を参考に作成するとよいでしょう。
5.ステップ④:相続登記申請の必要書類と期限
遺言書、法律、あるいは遺産分割協議の合意内容にそった形で遺産分割方法が確定し、さらには必要書類を揃えることができたら、相続する土地に関する登記申請に入ります。
5-1.相続登記申請に必要な書類一覧
相続登記で取得・作成すべき書類については前の項目で記載しましたが、実際には「遺言書に基づいて相続する場合」「法定相続分通りに相続する場合」「遺産分割協議の合意内容に基づいて相続する場合」で、提出書類が若干異なります。それぞれの場合で必要となる書類を以下に記載します。
【遺言書に基づく場合】
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の本籍入り住民票か戸籍の附票
- 不動産を相続(取得)する人の戸籍謄本
- 不動産を相続(取得)する人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
- 遺言書(法務局以外で保管されていた自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合)
【法定相続分通りの場合】
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
- 被相続人の本籍入り住民票か戸籍の附票
- 全相続人の戸籍謄本
- 全相続人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
【遺産分割協議の合意内容に基づく場合】
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
- 被相続人の本籍入り住民票か戸籍の附票
- 全相続人の戸籍謄本
- 全相続人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 全相続人の印鑑証明書
5-2.相続登記申請の期限と費用
これまで相続登記は法的な義務ではなく、申請期限も定められていませんでした。しかし、名義変更が行われず放置される土地の増加への懸念から、2021年に相続登記を義務化する法案が可決され、2024年を目処に施行されることになりました。施行後は、3年以内の相続登記が義務となり、期限内に登記しなかった場合は10万円以下の過料が科せられます。
また、相続税は被相続人の死亡を知った日から10カ月以内に申告されなければなりません。期限を過ぎると、2カ月以内であれば年2.8%、それ以降は年9.1%の延滞税が納付された相続税に追加で課されてしまいます。相続税が発生するのであれば、納付期限は2024年以前でも実質的に10カ月と考えるべきでしょう。
相続登記申請の費用のうち、代表的なものが登録免許税です。これは名義変更に伴って発生する税金で、固定資産税評価額の0.4%を法務局に支払います。また、各種書類の取得にも数百円程度の費用がかかります。例えば、住民票は1通あたり300円です。
相続登記や遺産分割協議書の作成を弁護士や司法書士などに依頼すると、その分の手数料もかかります。相続登記の場合は数万円程度、遺産分割協議書の作成には遺産総額の1%前後支払うのが一般的です。
6.まとめ:相続に関する全体像を把握しよう!
相続人になる可能性がある方は、手続きの全体像や費用・スケジュールを大まかに把握しておくと、いざそのときを迎えることになったとしても、あせらず、手続きを行うことができます。特に土地や家を相続する場合、土地や家などの不動産は分割することが難しく、相続人同士でトラブルとなるケースが少なくありません。もし可能ならば、家族が元気なうちに相続のお話をすることも、トラブルを防ぐひとつの選択肢となります。
遺言書がなく、遺産分割協議が首尾よく進まないなど問題があるようであれば、弁護士や司法書士などの力を借りることをおすすめします。
Q.相続税額はどうやって計算することができますか?教えてください!
A.課税対象となる相続財産の合計額から基礎控除額杜負債額・葬儀費用を差し引き、法定相続人同士で按分した後の課税遺産額に税率をかけて計算することができます。Q.相続登記って必ず行う必要がありますか?教えてください!
A.以前は相続登記は法的な義務ではありませんでしたが、2021年に相続登記を義務化する法案が可決され、2024年を目処に施行されるようになりました。施行後は3年以内の相続登記が義務となり、期限内に登録しなかった場合は10万円以下の過料が科せられます。