マンションの生前贈与を受ける場合、原則として贈与税の対象となります。
また、贈与であるとの意識がなくとも、親から子へマンションの名義変更をする場合なども、原則として贈与税がかかります。
では、マンションの生前贈与や名義変更にはどの程度の税金がかかるのでしょうか?
今回は、マンションの生前贈与にかかる税金について詳しく解説します。
生前贈与とは
生前贈与とは、贈与をする人(「贈与者」といいます)が生きているうちに資産を贈与することです。
「贈与」と「生前贈与」とに、明確な違いはありません。
ただし、あえて「生前贈与」という場合は、相続や死因贈与と対比して語られていることが多いといえます。
亡くなってから財産を渡すことが「相続」や「死因贈与」、生きているうちに財産を渡すことが「生前贈与」と整理します。
そのため、他人への贈与を「生前贈与」ということはほとんどなく、自分が亡くなった際に相続人となる相手(「推定相続人」といいます)への贈与を「生前贈与」と呼称することが多いです。
マンションに贈与税が生じるケース
マンションの移転で贈与税が生じるのは、主に次のケースです。
- マンションの贈与を受けた場合
- マンションを時価より非常に低い対価で買った場合
- マンションの名義を変えた場合
特に「3」は、贈与であるとの意識のないままに行ってしまうこともあるでしょう。
しかし、マンションの名義を変えることは贈与と同義であり、原則として贈与税の対象となります。
なお贈与税は、贈与を受けた人(「受贈者」といいます)が納税義務を負う税金です。
マンション現物の贈与と金銭の贈与はどちらが得?
マンション現物を贈与するのと、金銭を贈与してその金銭でマンションを買うのとでは、どちらが得なのでしょうか?
これには一長一短があり、どちらが得であると断言できるものではありません。
ただし、後ほど解説しますが、贈与税にはさまざまな特例があります。
中でも、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」はマンション現物の贈与には使うことができません。
贈与をする際は、あらかじめ税理士などの専門家に相談をしたうえでいずれの方法をとるのかを検討するとよいでしょう。
マンションの生前贈与でかかる税金の計算方法
マンションの生前贈与でかかる税金(贈与税)は、どのように計算すればよいのでしょうか?
基本的な計算方法は次のとおりです。
- ステップ1:全部事項証明書と固定資産税課税明細書を用意する
- ステップ2:マンションの土地部分を評価する
- ステップ3:マンションの建物部分を評価する
- ステップ4:税額を算定する
ステップ1:全部事項証明書と固定資産税課税明細書を用意する
はじめに、計算に必要となる資料を用意します。
主に必要となる資料は次のとおりです。
- マンションの「全部事項証明書」:法務局で取得する
- マンションの固定資産税課税明細書::固定資産税の納付書に同封されている不動産の一覧が載った書類。紛失している場合はマンション所在地の市区町村役場で「評価証明書」を取得する
ステップ2:マンションの土地部分を評価する
マンションは1つの財産のように見えるものの、実際は「土地部分」と「建物部分」とに分かれています。
このうち、土地部分は原則として次のように算定します。
- そのマンションの路線価図を探す
- 路線価に敷地面積を乗じて土地全体の評価額を算定する
- 敷地権割合を乗じて自己が権利を有する部分の土地の評価額を算定する
なお、土地や建物の評価はさまざまなものがあるものの、贈与税の計算をする際は原則として「相続税評価額」を使用します。
相続税評価額と実際の売却価格はイコールではなく、一般的に相続税評価額は売却価格の8割程度となることが多いです。
また、ここで紹介するのはあくまでも基本的な計算方法です。
土地の形状による補正や、複数の道に面している場合の調整などが入り、もう少し複雑な計算が必要となります。
また、2024年1月1日以後の贈与については評価乖離率を考慮した評価方法が適用される予定です。
そのマンションの路線価図を探す
路線価図とは、国税庁が公表している、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額を千円単位で表示した図です。
国税庁のホームページから住所をたどり、該当箇所の地図を探します。
その地図から評価したいマンションの所在地を探し、その場所の前面道路に書いてある数字を確認します。
たとえば、「300D」と書いてある場合、その土地の相続税表額は1㎡あたり「300,000円」ということです。
なお、数字の右についているアルファベットは借地権割合を示すものであり、マンションの評価をする際は特に気にする必要はありません。
路線価に敷地面積を乗じて土地全体の評価額を算定する
路線価にマンションの敷地面積を乗じて、土地全体の評価額を算定します。
マンションの敷地面積は、全部事項証明書や固定資産税課税明細などから確認することが可能です。
1㎡あたりの路線価が「300,000円」、全体の敷地面積が2,000㎡である場合、土地全体の路線価は次のように計算できます。
- 土地全体の路線価=300,000円×1,000㎡=3億円
敷地権割合を乗じて自己が権利を有する部分の土地の評価額を算定する
マンションの敷地は、その区分所有者全員で所有しています。
そのため、贈与対象となる部屋(専有部分)に付属する土地の評価額を按分して算定することが必要です。
その専有部分に付属する土地の割合を敷地権割合といい、原則として建物部分(専有部分)の全部事項証明書を見ることで確認することができます。
例の場合に敷地権割合が30分の1である場合は、贈与対象となる土地部分の評価額は次のように計算できます。
- 土地部分の評価額=3億円×30分の1=1,000万円
ステップ3:マンションの建物部分を評価する
マンションの建物部分(専有部分)の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額そのままです。
固定資産税課税明細書に記載されている建物部分の「固定資産税評価額(単に「評価額」や「価格」などとしている市町村もある)」を確認してください。
ここでは、建物部分の相続税評価額が1,000万円であるものと仮定します。
ステップ4:税額を算定する
マンションの評価ができたら、贈与税額を算定します。
贈与税額は、原則として次のように算定します。
- 基礎控除後の課税価格=受贈者が1年間(1月1日から12月31日まで)に受けた贈与の総額-110万円
- 贈与税額=基礎控除後の課税価格×贈与税率
また、税率は贈与者と受贈者との関係によって、「一般税率」と「特例税率」の2つに分かれています。
特例税率は18歳以上の者が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用するものであり、それ例外の場合は一般税率が適用されます。
一般税率
基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例税率
基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
マンション(土地部分と建物部分の合計)が2,000万円であり、特例税率の適用対象となる場合における贈与税額は次のようになります。
- 基礎控除後の課税価格=2,000万円-110万円=1,890万円
- 贈与税額=1,890万円×45%-265万円=585万5,000円
贈与税はさまざまな特例があるものの、特例の適用がない場合はこのように多額の税金がかかる可能性が高いといえます。
マンションの生前贈与で使える税金の特例
マンションの生前贈与では、贈与税の特例が使える可能性があります。
主な特例は次のとおりです。
- 相続時精算課税制度
- 居住用不動産贈与時の配偶者控除
- 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
それぞれの特例は細かな要件があるため、実際に適用を検討している際は、贈与をする前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、その贈与者と受贈者の間での贈与にかかる贈与税が、累計2,500万円までの贈与まで非課税となる特例です。
累計2,500万円を超えた後も、一律20%という低い税率で贈与税が課税されます。
ただし、相続時精算課税制度は単なる非課税課税制度ではありません。
相続時精算課税制度の適用を受けて贈与を受けた財産は、すべてその贈与者の死亡時に相続税の課税対象として持ち戻されます。
また、負担した贈与税がある場合、その贈与税相当額が相続税から控除されます。
つまり、その名称どおり「相続時」に「精算」して「課税」される贈与制度であるということです。
言い換えると、相続時精算課税制度は「相続税で、生前贈与ができる制度」といえるでしょう。
先ほど解説したように、マンションなど高価な資産を生前贈与する際は高額な贈与税がかかることが少なくありません。
しかし、相続まで待つのではなく、生前にマンションを贈与したい場合もあるでしょう。
そのような際は、相続時精算課税制度の活用が有力な選択肢となります。
居住用不動産贈与時の配偶者控除
居住用不動産贈与時の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産や居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除することができる特例です。
贈与者と受贈者が婚姻期間20年以上の夫婦である場合は、この特例の適用を受けることでマンションの生前贈与にかかる税金を大きく減らせる可能性が高いでしょう。
参照元:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除(国税庁)
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税とは、2023年12月31日までに父母や祖父母など直系尊属から居住用家屋の新築や取得に要する資金の贈与を受けた場合、最大500万円(省エネ等住宅の場合は1,000万円)までの贈与が非課税となる特例です。
この制度はマンション自体の贈与は活用できず、居住用マンションの購入資金の贈与を受けた際に活用できる可能性があるものです。
参照元:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(国税庁)
生前贈与されたマンションを売却する際にかかる税金の注意点
生前贈与を受けたマンションをその後売却して譲渡益(利益)が出る場合は、その譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税は次の式で算定します。
- 課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
- 譲渡所得税額=課税譲渡所得金額×税率
生前贈与で取得したマンションを売却する際にかかる譲渡所得税を計算する際は、次の点に注意してください。
- マンションの取得価額を把握していないと税金が高くなる
- 贈与者の所有期間を引き継げる
- 特例の適用が受けられる可能性がある
なお、譲渡所得税の試算をするには、そのマンションがいくらで売れるのか把握しておくことが必要です。
マンションの売却予想額が知りたい場合は、東証プライム上場企業のSREホールディングスが運営する「おうちクラベル」をご利用ください。
おうちクラベルは、1度の入力で複数の不動産会社に査定を依頼することができる不動産一括査定です。
査定の依頼先となる不動産会社は実績豊富な優良企業ばかりであり、安心して利用できます。
マンションの取得価額を把握していないと税金が高くなる
譲渡所得税を計算する際の取得費は、そのマンションの購入費など取得に要した費用です。
マンションを生前贈与で取得した場合、贈与者がそのマンションの取得にあたって支払った取得費を引き継ぐことができます。
しかし、自分で購入をしたマンションであればまだしも、生前贈与で受け取ったマンションでは取得費がわからないことも少なくないでしょう。
その場合は、「収入金額(売却対価)×5%」で簡易的に取得費を計算することとなります。
しかし、実際の取得費が「収入金額(売却対価)×5%」より少ないことは稀であり、実際の取得費がわからない場合は結果的に譲渡所得税の計算で損をすることとなりかねません。
そのため、マンションを生前贈与で取得する際は、売却時の税金で損をしないよう購入時の資料なども受け取っておくことをおすすめします。
参照元:No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
贈与者の所有期間を引き継げる
譲渡所得税とこれに付随する住民税の税率は、売却したマンションの所有期間がその年1月1日時点で5年以下であるか5年超であるかによって2段階となっています。
売却した年の1月1日時点での所有期間 | 税率 | |||
所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 | |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
マンションを生前贈与で受け取った場合、所有期間は贈与を受けた日からカウントするのではなく、贈与者の所有期間を引き継ぐことが可能です。
つまり、贈与者が取得した時から受贈者が譲渡した年の1月1日までの所有期間で、長期譲渡所得か短期譲渡所得かを判定することになります。
特例の適用が受けられる可能性がある
譲渡所得税にはさまざまな特別控除特例があります。
特別控除特例とは、要件を満たすことで適用を受けることができる、実際の支出を伴わない控除を定めた特別な例外規定のことです。
特別控除には、たとえば「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」などがあります。
これは、自分が住んでいた家屋を売却した場合に最大3,000万円の控除が受けられる特例です。
売却するマンションを自宅として活用している場合は、この特例の適用が受けられる可能性が高いでしょう。
特例の適用にはさまざまな要件があるため、適用を受けたい場合はあらかじめ税理士などの専門家に相談しておくことをおすすめします。
参照元:No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)
生前贈与されたマンションを売却する際のポイント
生前贈与で受け取ったマンションを売却する際は、どのような点に注意すればよいでしょうか?
生前贈与を受けたマンションを売却する際の主な注意点やポイントは次のとおりです。
- 築年数が浅いほど高値で売りやすい
- 査定は複数の不動産会社に依頼する
- そのマンションの売却に強い不動産会社に依頼する
- あらかじめ税金の試算をしておく
築年数が浅いほど高値で売りやすい
マンションは、築年数が浅いほど高値で売りやすい傾向にあります。
公益財団法人東日本不動産流通機構(通称「東日本レインズ」)が公表している「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」でも、次のグラフが公表されています。
参照元:築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)(公益財団法人東日本不動産流通機構)
生前贈与を受けたマンションを売却するか迷っている場合は、早めに売却を検討するとよいでしょう。
査定は複数の不動産会社に依頼する
査定とは、そのマンションの売却想定額を不動産会社に算定してもらう手続きです。
生前贈与を受けたマンションを売却する際の査定は、1社のみではなく、複数の不動産会社に依頼をするとよいでしょう。
なぜなら、依頼先の不動産会社によって査定額が異なることは珍しくないためです。
複数の不動産会社による査定額を比較することで、そのマンションの売却適正額を把握しやすくなるほか、複数の不動産会社が競い合ってそのマンションの利点を探すことで査定額が高くなる効果も期待できます。
しかし、自分で複数の不動産会社を回って査定の依頼をすることは、多大な手間と時間を要します。
そこでおすすめなのが、不動産一括査定「おうちクラベル」のご利用です。
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そのマンションの売却に強い不動産会社に依頼する
生前贈与で受け取ったマンションの売却を成功させるには、そのマンションの売却に強い不動産会社に売却を依頼することがカギとなります。
そのマンションの売却にノウハウを持つ不動産会社に依頼すると、そのマンションの利点を効果的にアピールしてくれる可能性が高くなるほか、独自のネットワークで買い手を見つけてくれる可能性もあります。
しかし、どの不動産会社がそのマンションの売却に強いかわからない場合も少なくないでしょう。
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複数社による査定額や説明などを比較することで、そのマンションの売却に強みを持つ不動産会社と出会いやすくなるでしょう。
あらかじめ税金の試算をしておく
生前贈与で取得したマンションを売却して利益が出る場合は、譲渡所得税の対象となります。
マンションが高値で売れた場合や特別控除が使えない場合などは、譲渡所得税が高額となる可能性があります。
そのため、生前贈与を受けたマンションを売却する際は、あらかじめ税理士などへ相談したうえで、税金の試算をしておくことをおすすめします。
まとめ
マンションを生前贈与で受け取った際は、贈与税の対象となります。
特例の適用などを受けることなくマンションの生前贈与を受ける場合は、多額の贈与税がかかる可能性があります。
そのため、生前贈与をする前に税理士などの専門家に相談しておく必要があるでしょう。
また、生前贈与で取得したマンションを売却して利益が出る場合は、その儲けに対して譲渡所得税がかかる点にも注意しなければなりません。
生前贈与を受けたマンションを売却する際は、ぜひ「おうちクラベル」をご利用ください。
おうちクラベルは、東証プライム上場企業のSREホールディングスが運営する不動産一括査定サイトです。
複数社による査定額を比較することで、そのマンションの売却適正額が把握しやすくなるうえ、そのマンションの売却に自信のある不動産会社を見つけやすくなるでしょう。