長期譲渡所得って何?短期との違いや税率・計算方法もご紹介

不動産を売却したとき、最終的に利益が出た場合には税金がかかることがあります。課せられる税率は一律ではなく、物件の所有期間によって異なる点を押さえておきましょう。
長期譲渡所得と短期譲渡所得があり、どちらに当てはまるかで税額は大きく異なります。この記事では、長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いや計算方法、条件に当てはまることで適用される税金の特例制度などを解説します。

長期譲渡所得とは?

「長期譲渡所得」とは、所有期間が5年を超えている不動産を売却したときに該当する譲渡所得のことを指します。売却代金(譲渡価格)そのものに課税されるわけではなく、購入時にかかった費用(取得費)や売却時に支払った費用(譲渡費用)などを差し引いたものが譲渡所得であり、物件の所有期間に応じて譲渡所得税が課されます。

譲渡所得税とは、所得税・復興特別所得税・住民税の総称です。物件の所有期間によって、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられ、それぞれ定められた税率が課される仕組みになっています。なお、譲渡所得税は譲渡所得がマイナスとなる場合には課せられない点を押さえておきましょう。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い

長期譲渡所得は前述のとおり、不動産の所有期間が5年を超える場合に該当します。所有期間が5年以下となる場合は、短期譲渡所得となり税率が高くなるので注意が必要です。

マイホームを売却する場合であれば、購入時に交わした売買契約書などから物件の取得時期を把握することができますが、相続や贈与などで物件を取得した際には、所有期間がどれくらいかを把握するために時間を取られることもあるでしょう。物件の所有期間によって税率が大きく異なるため、売却するタイミングにも影響を与える部分があります。

不動産の売却を検討するときは、まず物件の所有期間がどの程度あるかをきちんと把握してみましょう。

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譲渡所得の期間区分

譲渡所得税は物件の所有期間によって異なりますが、所有期間を考えるときには注意すべき点があります。物件の購入日から売却日で所有期間を計算するわけではなく、売却した年の1月1日時点から数えて何年所有していたかで判断されます。

例えば、購入日が2016年11月1日で売却日が2021年12月1日とすると、1月1日時点での所有期間は5年以下となり、短期譲渡所得に該当します。一方、購入日が2015年11月1日で売却日が2021年12月1日とすると、1月1日時点での所有期間は5年超となり、長期譲渡所得に当てはまります。

なお、物件の購入日は売買契約書を締結した日、もしくは不動産の引き渡しを受けた日とされるケースが多いと言えます。どの時点から計算すべきか迷ったときは、不動産会社の担当者に確認をしてみましょう。

長期譲渡所得・短期譲渡所得の税率は?

不動産の売却時期を適切に判断するために、長期譲渡所得と短期譲渡所得に課せられる税率の違いについて把握しておきましょう。それぞれの税率をまとめると、以下のとおりです。

■長期譲渡所得の税率

税金の種類税率
所得税15%
住民税5%
復興特別所得税
(2013年~2037年まで課税される)
所得税額×2.1%
合計20.315%

■短期譲渡所得の税率

税金の種類税率
所得税30%
住民税9%
復興特別所得税
(2013年~2037年まで課税される)
所得税額×2.1%
合計39.63%

上記の表から分かるように、長期譲渡所得と短期譲渡所得では税率が大幅に異なります。譲渡所得が多いほど課せられる税額が大きくなるため、どちらの譲渡所得に該当するかは不動産の売却において重要なポイントです。

なお、相続によって物件を取得した場合も所有期間は引き継がれます。物件の取得時期によっては長期譲渡所得と短期譲渡所得のどちらに当てはまるのか不明確な部分もあるので、売却を仲介する不動産会社としっかりコミュニケーションを取りながら、売却活動を進めましょう。

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長期譲渡所得の計算方法

譲渡所得税がいくらになるのかを考えるうえで、まずは譲渡所得を正しく計算する必要があります。譲渡所得の計算は、次の式に当てはめることで算出できます。

譲渡所得=売却代金(譲渡価格)-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

不動産における取得費とは、購入時にかかった費用のことを指します。
具体的には、土地や建物の購入代金・建築代金・設備費・地盤改良費・仲介手数料・登記費用・印紙代・測量費用などがあげられます。

なお、建物の取得費はそのまま計上できるわけではなく、物件の所有期間に応じた減価償却費相当額を購入代金から差し引いた金額となります。取得費が分からない場合は、売却価格の5%相当額を取得費とすることもできます。

そして、譲渡費用とは不動産を売却したときにかかった費用のことを指します。
具体的な費用項目としては、仲介手数料・印紙代・取り壊し費用と建物の損失額・立ち退き料・違約金・名義書換料などが当てはまります。

不動産を維持するためにかかった修繕費用や固定資産税などは当てはまらないので注意しましょう。売却代金からこれらの取得費・譲渡費用を差し引いたものが譲渡所得となりますが、一定の条件に該当する場合は特別控除が適用される点にも注目しておきましょう。

譲渡所得がプラスとなる場合は通常であれば税金を納めることになりますが、特別控除が適用されることで税負担が軽減したり、税金の納付そのものが不要になったりすることもあります。特別控除にはいくつかの種類がありますが、不動産売却時によく活用されるものとしては「3,000万円の特別控除」「10年超所有軽減税率の特例」「特定居住用財産の買換え特例」などがあげられます。

上記の点を踏まえたうえで、長期譲渡所得を実際に計算してみましょう。
課税対象となる譲渡所得が3,000万円である場合、長期譲渡所得における税額計算は以下のようになります。

所得税:3,000万円×15%=450万円
住民税:3,000万円×5%=150万円
復興特別所得税:450万円×2.1%=94,500円
税額の合計:609万4,500円

この場合は譲渡所得税が609万4,500円となりますが、例えば「3,000万円の特別控除」に当てはまるときは譲渡所得が0円となるため、税負担がなくなります。なお、税金の特例制度は不動産を売却した翌年に確定申告を行うことで適用されるものなので、どの特例に該当するかを把握したうえで、適切に申告を行いましょう。

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譲渡価額

譲渡価格とは、土地や建物などを売却したときの代金を指します。不動産を売却することによって得た収入と理解しておけば問題ありません。

譲渡価格は実際に売買契約を締結するまではいくらになるかが分かりませんが、不動産の一括査定サービスを利用することで査定額を把握できるので、大まかな売却価格を想定したり税金の計算に役立てたりできるでしょう。

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取得費

取得費は、土地や建物の購入代金やその他の諸費用のことを指します。諸費用としては仲介手数料・測量費用などがあげられます。

登録免許税・不動産取得税・特別土地保有税・印紙税などの税金も、取得費に含まれます。ただし、事業用の不動産である場合はこれらの税金は取得費に含まれないので注意しましょう。

そして、建物の取得費はそのまま計上できるものではなく、所有期間に応じた減価償却費相当額を差し引いて計算します。減価償却費相当額の計算は、事業用か非事業用かで異なるので気をつけておきましょう。

非事業用の不動産の場合、減価償却費の計算は次の式に当てはめて算出します。

非事業用不動産の減価償却費=建物の購入価格×90%×償却率×経過年数

償却率は建物の構造や用途によって異なります。経過年数とは、具体的には築年数のことを指します。

建物の償却率と耐用年数は法律で定められており、建物の構造や用途別にまとめると以下のとおりです。

構造別償却率と耐用年数

建物の構造耐用年数償却率
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造70年0.015
れんが造、石造又はブロック造57年0.018
金属造
骨格材の肉厚4mm超
51年0.020
金属造
骨格材の肉厚3mm超4mm以下
40年0.025
金属造
骨格材の肉厚3mm以下
28年0.036
木造又は合成樹脂造33年0.031
木骨モルタル造30年0.034

引用:国税庁

売却予定の不動産が上記のどの要件に当てはまっているかを確認して、減価償却費を計算して取得費を割り出してみましょう。なお、土地や建物の取得費が分からなかったり、実際の取得費が売却価格の5%を下回ったりしている場合は、売却価格の5%を取得費として見なすことで計算することもできます。

各種税金についてみていくと、登録免許税は不動産の登記手続きを行う際に課税される税金を指します。土地や建物の評価額に対して、一定の税率をかけて計算を行います。

不動産取得税は、土地や建物を購入したときや贈与などによって取得したときにかかる税金です。どのような形で取得したかにかかわらず、課税対象となる点に注意しておきましょう。

特別土地保有税とは、土地の有効利用や投機的な取引を防ぐことを目的として設けられている税金です。ただし、2003年1月1日以降に取得した土地については課税が停止されています。

そして、印紙税は不動産取引においては売買契約書に貼付する印紙代のことを指します。契約金額によって税額は異なるため、売買契約を交わす際に不動産会社の担当者に確認しておきましょう。

譲渡費用

譲渡費用は、土地や建物を売却するためにかかった諸費用を指します。具体的には、不動産会社に支払う仲介手数料や登記費用(登録免許税・司法書士への報酬)、売却活動を行う際にかかった広告料や測量費用などが該当します。

売買契約書に貼付する印紙代、立ち退き料・取り壊し費用なども含まれるため、売却時に支払った費用をきちんと把握しておきましょう。なお、引っ越し費用や修繕費用、固定資産税などは譲渡費用に含まれません。

印紙税については契約金額によって、納めるべき税額は異なります。2022年3月31日までは軽減税率が適用されており、契約金額別にまとめると以下のとおりです。

契約金額本来の税額軽減措置適用後の税額
1万円未満非課税非課税
1万円超10万円以下200円200円
10万円超50万円以下400円200円
50万円超100万円以下1,000円500円
100万円超500万円以下2,000円1,000円
500万円超1,000万円以下1万円5,000円
1,000万円超5,000万円以下2万円1万円
5,000万円超1億円以下6万円3万円
1億円超5億円以下10万円6万円

特別控除

不動産を売却したときに譲渡所得がプラスとなる場合には、物件の所有期間に応じて譲渡所得税が課せられます。しかし、一定の条件を満たして確定申告を行うことで、税金の特例制度を活用できる可能性があります。

税金の特例制度を活用すれば、譲渡所得から一定額を控除することができ、税負担の軽減につながるでしょう。不動産を売却した際に活用できる税金の特例制度としては、主に次の4つがあげられます。

  • 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
  • 10年超所有軽減税率の特例
  • 特定居住用財産の買換え特例
  • 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

各特例制度がどのような場合に適用されるのかをそれぞれ解説します。

居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

マイホームを売却するなど、居住用財産を売ったときに譲渡所得から最大で3,000万円までを控除できる特例制度です。物件の所有期間にかかわらず、3,000万円までを控除できるため使い勝手の良い制度だと言えるでしょう。

譲渡所得が3,000万円であれば、この制度を活用することで譲渡所得がゼロとなり、結果的に譲渡所得税が発生しなくなります。3,000万円の特別控除の適用条件は次のとおりのため、自分の場合に当てはまるのかをよく確認しておきましょう。

  • 現在、自分が住んでいる家であること
  • 住まなくなってから3年経過した年の12月31日までに売却できる
  • 土地の売却契約締結が解体から1年以内であり、かつ、住まなくなった日から3年経過する年の12月31日までに売却すること、その土地を賃貸していないこと
  • 売った年の前年および前々年に3,000万円の特別控除や譲渡損失の損益通算、繰越控除の特例の適用を受けていないこと
  • 災害により家屋が焼失していた場合、住まなくなった日から3年経過する年の12月31日までにその敷地を売ること。
  • 売り手と買い手が、親子や夫婦、内縁関係にある人、特殊な関係の法人など特別な関係ではないこと

10年超所有軽減税率の特例

マイホームなど居住用財産を売却するときに、物件の所有期間が10年を超えていれば活用できる特例制度です。前述の3,000万円の特別控除と併用できるため、最大で6,000万円以下の譲渡所得については税負担が軽減されます。

長期譲渡所得にかかる税金は通常20.315%ですが、この特例制度が適用されることで税負担は以下のように軽減されます。

 6,000万円以下の部分6,000万円超の部分
所得税10.21%15.315%
住民税4%5%
合計14.21%20.315%

譲渡所得が大きければ、わずかな税率の差でも負担額に違いが出てきます。税負担を軽くするためにも、特例制度の適用条件をよく確認しておきましょう。

  • 不動産を売却した年の1月1日現在において所有期間が10年を超えていること
  • 売却した年から、前年および前々年にこの特例の適応を受けていないこと
  • 売買契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
  • 親子や夫婦など特別な関係への売却ではないこと

特定居住用財産の買換え特例

居住用財産の所有期間が10年を超えており、実際に住んでいた期間が10年以上である場合に適用される特例制度です。住み替えに伴うマイホームの買換え時に活用できる制度であり、下記の条件を満たすことで売却益に対する課税を将来に繰り延べることができます。

課税の繰り延べであるため、最終的には税金を支払う必要がありますが、買換えを行うときは手元の資金が不足しがちとなるため、うまく活用することで資金計画を立てやすくなるでしょう。

ただし、3,000万円の特別控除との併用ができないため、どちらの制度を利用するかを慎重に判断する必要があります。制度の適用条件としては以下のとおりです。

  • 国内の不動産
  • 自分自身が住んでいる家
  • 買換える住宅家屋の床面積が50平方メートル以上であり、買換える土地の面積が500平方メートル以下
  • 10年以上の期間、居住用として住んでいた物件
  • 以前に住んでいた家屋や敷地等で、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。(2021年(令和3年)12月31日までの譲渡に限る)
  • 売却金額が1億円以下である
  • 売却した相手方が親族・同族会社ではないこと
  • 直近2年間に別の特例を併用していないこと

被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

相続によって物件を取得した場合、被相続人が亡くなった日から数えて3年を経過する年の12月31日までに売却したときに3,000万円を控除できる特例制度です。実家を相続しても売却時の税負担が気になって、そのまま空き家として放置することもめずらしくありません。

空き家問題を解消する目的で設けられた制度であり、条件に当てはまる場合は積極的に活用してみましょう。適用条件については以下のとおりです。

  • 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた
  • 売却価額が1億円以下
  • 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く)であること
  • 相続の時から譲渡の時まで空き家であった
  • 家屋を売却する場合、売却時に当該家屋が現行の耐震基準に適合するものであること、又は解体されていること
  • 相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ、特例の適用期間である2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに譲渡すること

長期譲渡所得税額の計算

譲渡所得を計算するうえで必要な取得費・譲渡費用・特別控除の仕組みを把握し、物件の所有期間によって異なる税率を理解しておけば、長期譲渡所得税額の計算が行

えます。長期譲渡所得税の税率は20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)であり、譲渡所得が割り出せれば自分で計算することもできます。

ただし、初めて不動産を売却するときは費用項目や税金の特例制度など把握すべきポイントも多いため、どのように進めていけばいいか悩んでしまうこともあるでしょう。したがって、不動産の売却において何でも相談できる不動産会社を探し、スムーズに売却活動を進めていくことが大切です。

不動産の一括査定サービスを利用すれば、Webを通じて複数の会社に査定依頼を行えます。査定額を知るだけでなく、信頼できる不動産会社を見つけるきっかけにもなるため、ぜひ活用してみましょう。

長期譲渡所得を正しく理解して確定申告をしよう

不動産の売却時に気になる点として、税金がどれくらいかかるのかという部分があげられます。不動産の所有期間によって税率は異なり、税金の特例制度を活用できるかどうかによっても税負担が大きく変わってきます。

また、税金の特例制度はたとえ条件に当てはまっていても自動的に適用されるものではないため、不動産を売却した翌年には必ず確定申告を行いましょう。売却から税金の申告をスムーズに行うためにも、不動産売却を親身になってサポートしてくれる不動産会社を見つけておくことが肝心です。

不動産の一括査定サービスを活用すれば、時間や手間をかけずに自分に合った会社を探すことができます。まずは不動産がいくらで売却できるのかを知るためにも、気軽に一括査定サービスを利用してみましょう。

Q:売却損となった場合でも、利用できる特例制度はありますか?
A:不動産を売却して損失が出てしまった場合でも、確定申告を行うことで活用できる特例制度があります。給与所得などほかの所得と譲渡所得を合算できるため、結果として税負担が軽減できる可能性があるため、売却損となったときでも確定申告を行いましょう。

Q:不動産会社の担当者に税金の相談をしてもいいのでしょうか?
A:具体的な税額の計算は税理士に相談しましょう。どのような特例制度が利用できるかや、確定申告の大まかな方法を尋ねる程度であれば、不動産会社の担当者からアドバイスを受けても構いません。

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