「専任媒介契約」とは、不動産を売却したい売主と売却活動を仲介する不動産会社が締結する媒介契約の一種です。売主に対する拘束力が強い契約内容となっているので、特徴をしっかりと理解したうえで契約することが大切です。今回は、この専任媒介契約の特徴から一般媒介契約との違い、契約締結時のチェックポイントまで、徹底的に解説します。
1.不動産売却時の専任媒介契約とは？
不動産売却時の専任媒介契約とは、売主と不動産会社が締結する媒介契約の一種です。媒介契約とは、不動産会社へ不動産売却の仲介を依頼する際に締結する契約です。
不動産売買契約は、不動産会社に仲介を依頼しなくても個人間で締結できます。しかし、取引価格が大きく、トラブルが生じやすいため、売買仲介をしている不動産会社へ依頼するケースが一般的です。
媒介契約は、不動産の売却活動を依頼するにあたって、売主が不動産会社に依頼する業務の範囲や契約締結時に支払う仲介手数料を明確にするために締結します。
媒介契約の契約内容は、宅地建物取引業法で書面での交付が義務付けられているので、契約を締結する際は内容をよく確認しましょう。
また、媒介契約は、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類あり、契約内容によって、不動産会社の義務や売主に対する制約が異なります。
1-1.専任媒介とは
専任媒介とは、一般媒介に対して、売主への拘束力が強い契約形態です。専任媒介契約を締結する際は、契約前にしっかりと内容を確認することをおすすめします。
ただし、売主に対する拘束力が強いぶん、不動産会社のさまざまな業務が義務化されているなど、複数のメリットがあります。専任媒介についての理解を深めるために、一般媒介との違いや専任媒介のメリットについて、次の章から解説していきましょう。
2.一般媒介契約、専任・専属専任媒介契約の違い
媒介契約には、以下の3種類があります。
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
それぞれの主な特徴は、一般媒介契約または専任媒介契約・専属専任媒介契約によって異なります。詳細の違いについては後ほど解説するので、まずは以下の表で大まかな違いを確認してみてください。
| 他社への依頼 | レインズへの登録義務 | 活動報告義務 | 契約期間 | |
|---|---|---|---|---|
| 一般媒介契約 | ○ | × | × | 制限なし※ |
| 専任・専属専任媒介契約 | × | ○ | ○ | 3カ月以内 |
※法令上の制限はありませんが、一般的には3カ月以内です。
一般媒介契約と専任・専属専任媒介契約の大まかな違いは、一般媒介契約のほうが売主に対する制約が少なく、不動産会社に義務化されている業務の範囲が狭いことです。
また、同じ専任媒介でも、専任媒介契約と専属専任媒介契約では、不動産会社による活動報告の頻度が異なるなど特徴が異なります。
各項目の違いについて、もう少し細かく解説していきましょう。
2-1.他社への依頼
他社への依頼とは、売主が不動産会社と媒介契約を締結した後、ほかの不動産会社とも媒介契約を締結できるかどうかを意味します。
一般媒介契約では、複数の不動産会社と同時に媒介契約を締結できますが、専任媒介契約では複数社との契約ができません。
不動産売却では、できるだけ多くの人に物件の情報を知ってもらう機会を増やすと、買主が現れやすくなります。複数社に依頼することで、多くの人にアピールできる機会が増えるでしょう。
それでは一般媒介契約のほうがよいのかといわれると、そうとは限りません。
専任媒介では、一度に依頼できる不動産会社が1社のみですが、そのぶん、不動産会社が売却活動に力を入れてくれる可能性が高くなります。
一度に複数の不動産会社に仲介を依頼したい人には一般媒介契約、売却に力を入れてほしい、信頼できる不動産会社を知っている人には専任・専属専任媒介契約がおすすめです。
2-2.レインズへの登録義務
レインズ（REINS）とは、不動産会社間で情報を共有できるウェブサイトのことです。国土交通大臣から指定を受けた、不動産流通機構が運営しています。
一般媒介契約と専任・専属専任媒介契約では、不動産会社に対するレインズへの登録義務も異なります。一般媒介契約では、不動産会社にレインズへの登録義務がありません。一方、専任・専属専任媒介契約では、レインズへの登録が義務化されています。
レインズに売却したい不動産の情報を登録してもらうことで、全国の不動産会社が物件情報を確認できるというメリットがあります。
例えば、関西に住んでいる人でも、転勤などの事情で東京都の不動産を探している人もいるでしょう。レインズに登録していれば、そのような人が関西の不動産会社に問い合わせた場合でも、情報を確認することができます。
レインズに登録するまでの日数の違い
専任媒介契約・専属専任媒介契約では、レインズに登録するまでの日数が以下のように異なります。
専任媒介契約：媒介契約締結日から7日以内
専属専任媒介契約：媒介契約締結日から5日以内
専属専任媒介契約は、3つの媒介契約のなかでもっとも制約が強い契約です。そのため、レインズに登録するまでの日数の制限も、専任媒介契約よりも短く設定されています。
2-3.活動報告義務
不動産会社と媒介契約を締結すると、売却に向けてどのような活動をしているのか報告を受けることが可能です。ただし、一般媒介契約における不動産会社の活動報告は任意のため、活動報告をしてくれるかどうかは不動産会社次第になります。
一方、専任・専属専任媒介契約では、活動報告が義務化されているため、定期的に売却活動状況を確認することができます。
報告頻度の違い
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、義務化されている活動報告の頻度が以下の通り異なります。
専任媒介契約：2週間に1回以上
専属専任媒介契約：1週間に1回以上
専属専任媒介契約のほうが義務化されている活動報告の頻度が高いので、小まめに報告してほしい人は専属専任媒介契約を検討してみてください。
2-4.契約期間
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、契約期間が3カ月以内と決められています。一般媒介契約には法令上の制限がありませんが、一般的には3カ月以内です。
専任媒介に契約期間が定められている理由は、売主にとって拘束力が強い契約であるためです。
先述の通り、専任媒介の場合、一度に媒介契約を締結できるのは1社のみとなっています。契約期間を3カ月に限定することで、活動がうまくいかなくても売却計画を見直す、不動産会社を再検討するなどの対策をとることが可能です。
2-5.一般媒介契約の明示型・非明示型
一般媒介契約には、明示型・非明示型があります。それぞれの違いは、売主がほかの不動産会社と媒介契約を締結した場合、すでに一般媒介契約を締結した不動産会社に知らせる義務があるかどうかです。
明示型では、ほかの不動産会社へ同時に依頼していることを知らせる必要があり、非明示型ではその必要がありません。
どちらがよいか一概にはいえませんが、明示型の場合、不動産に対する売却活動の優先順位が下がることが考えられます。理由は、不動産会社の利益は、売買契約が成立したときに発生する性質を持つためです。
ほかの不動産会社と媒介契約を締結している人の売却活動に力を入れても、自社で契約を成立させることができなければ、それまでの苦労が無駄になってしまいます。そのため、優先度が必然的に下がります。
一般媒介契約を締結する場合、契約前に明示型・非明示型のどちらかを確認しておきましょう。
3.どの媒介契約にするべき？【媒介契約の選び方】
前章では、3種類の媒介契約を比較しましたが、どの媒介契約にするべきかわからないという人もいるでしょう。ここでは、媒介契約の選び方をケース別に解説します。
3-1.知人に買主の見当がついている
家族や友人・知人に買主の見当がついている人は、一般媒介契約または専任媒介契約がおすすめです。理由は、専属専任媒介契約は売主が買主を探した場合でも、直接契約ができないためです。
専属専任媒介契約では、家族や友人が買主になる場合でも、必ず媒介契約を締結した不動産会社を通して契約する必要があります。つまり、売主自身が買主を探した場合でも、仲介手数料がかかる仕組みです。
知人に買主の見当がついていて、契約時は不動産会社を通さずに契約したい人は、一般媒介契約または専任媒介契約が向いています。
ただし、不動産売買契約の当事者に専門知識がない場合、当事者のみで契約する方法はおすすめできません。安全に不動産売買契約を締結するためには、仲介手数料を支払って不動産会社に依頼することがベターです。
3-2.売却を急いでいる
売却を急いでいる場合、専任媒介契約または専属専任媒介契約が向いています。理由は、不動産会社が積極的に活動してくれる可能性が高いためです。
不動産会社は、売却活動をするだけでは利益になりません。売却活動をして不動産売買取引が成立することで「仲介手数料」という形で利益を得ることができます。
一般媒介契約は複数社と契約できるため、ほかの不動産会社に利益をとられる可能性があり、売却活動の優先順位は下がってしまいます。
専任・専属専任媒介契約では売買契約が成立すれば確実に利益を得られるため、積極的に活動してくれるでしょう。
3-3.売却したい不動産の条件が悪い
売却したい不動産の条件が悪い場合、専任媒介契約または専属専任媒介契約がおすすめです。
不動産売却は、不動産の立地や劣化状態などの条件によって難易度が異なります。条件が悪い不動産は売りにくいため、買主を探すことに苦労する可能性が高くなります。つまり、積極的な売却活動が求められるということです。
例えば、売却予定の不動産が以下の条件に当てはまる場合、専任媒介契約または専属専任媒介契約を検討するとよいでしょう。
- 日当たりが悪い
- 築年数が経っている
- 生活の便が悪い
- 駅から離れている
4.媒介契約によって仲介手数料は変わる？
媒介契約には3つの種類がありますが、種類によって仲介手数料が変わることはないので安心してください。
仲介手数料という言葉を知っていても、仕組みや相場について知らない人もいるでしょう。仲介手数料についての知識を深めておくと、売却活動に役立ちます。ここでは仲介手数料の仕組みや相場について解説します。
4-1.仲介手数料とは？
仲介手数料とは、仲介を依頼した不動産会社を通して不動産売買取引が成立した場合に不動産会社へ支払う成功報酬です。
不動産を売却するためには、広告の作成・掲載、購入希望者への内覧対応、契約手続きなどさまざまな業務が発生します。仲介手数料は、それらの業務や情報提供に対して支払う手数料です。
仲介手数料は売買契約が成立しなければ発生しないので、売買契約成立前に請求されることはありません。
4-2.仲介手数料の相場
仲介手数料の金額は不動産会社によって異なりますが、宅地建物取引業法では上限が定められています。仲介手数料の上限は、以下の通りです。
仲介手数料の上限＝売買代金×3％＋6万円（消費税別）
例えば、売買代金3,000万円の場合、仲介手数料の上限は96万円（消費税別）となります。
計算式：96万円＝3,000万円×3％＋6万円（消費税別）
不動産会社が上限以上の仲介手数料を請求することは法律違反なので、注意が必要です。
また、仲介手数料には上限が定められていますが、下限はありません。そのため、不動産会社によっては仲介手数料を値引きしているケースもあります。
5.専任媒介契約を締結するメリット
不動産会社に積極的な売却活動を求める場合、専任・専属専任媒介契約を締結することをおすすめします。ここでは、専任媒介契約を締結するメリットを解説します。
5-1.買主が早く見つかりやすい
専任・専任専属媒介契約では、不動産会社が積極的に活動してくれる可能性が高いため、買主が見つかりやすいことがメリットです。
不動産の売却期間が長引くと「売れ残り」「問題がある」など、買い手にネガティブな印象を与えかねません。そのため、売り出し価格を下げなければ売れない場合があります。
買主が早く見つかりやすいと、不動産を高く売れる可能性が高くなるでしょう。
5-2.窓口を一本化できる
一般媒介契約で複数の不動産会社に依頼する場合、複数の不動産会社とのやり取りに時間をとられる場合があります。専任・専属専任媒介契約で窓口を一本化することで、売主の負担を軽減することができます。
6.専任媒介契約を締結するデメリット
専任媒介・専属専任媒介契約には、キャンセル料がかかる、囲い込みのリスクがあるなどのデメリットがあります。メリットと併せて専任媒介契約のデメリットも確認しておきましょう。
6-1.キャンセル料がかかる場合がある
専任媒介契約・専属専任媒介契約を締結した場合、売主の一方的な契約解除に対してキャンセル料が発生する場合があります。無駄なお金がかからないように、キャンセル時の条件を契約前にしっかりと確認しておくことが大切です。
ただし、以下のケースでは売主が専任媒介契約を解除できます。
- 不動産会社が契約違反をした
- 不動産会社が定められた業務を誠実に遂行しない
- 媒介契約の重要事項について嘘をついていた
- 不動産会社が宅建業法違反をした
万が一このような不動産会社と媒介契約を締結してしまった場合、ほかの不動産会社に依頼することを検討しましょう。
6-2.囲い込みのリスクがある
囲い込みのリスクがあることも、専任媒介・専属専任媒介契約のデメリットです。囲い込みとは、ほかの不動産会社からの問い合わせに対して、売却に応じないことをいいます。
例えば、不動産会社Aと売主が専属専任媒介契約を締結したとします。不動産会社Aがレインズに物件情報を登録した数日後、不動産会社Bから問い合わせがありました。しかし、不動産会社Aが「すでに買い手が見つかっている」と回答するなど、不動産会社Bの顧客に売却しないことが囲い込みです。
囲い込みが起こる原因は、仲介手数料の仕組みが関係しています。
不動産会社が売主・買主双方の仲介をした場合、それぞれに仲介手数料を請求することができます。1社の不動産会社が売主・買主双方の仲介をすることを両手仲介、片方の仲介をすることを片手仲介といいます。（図参照）
不動産会社Aが両手仲介をした場合、不動産売買契約の成立で得られる仲介手数料は、最大6％＋12万円（消費税別）です。売買代金3,000万円の場合、仲介手数料の上限は192万円（消費税別）になります。
計算式：
96万円＝3,000万円×3％＋6万円（消費税別）
192万円＝96万円×2
両手仲介自体は悪いことではありませんが、両手仲介のために囲い込みをして売主の売却チャンスを逃している点が問題となっています。
専任・専属専任媒介契約では、囲い込みを防止するためにレインズへの登録を義務化していますが、なかにはこのように囲い込みされるケースもあるため注意が必要です。
7.信頼できる不動産会社に出会うためには？
前章で解説したデメリットを解決するためには、信頼できる不動産会社を探すことがポイントになります。多くの人にとって、不動産の売却は人生で何度も経験することではありません。わからないことばかりなのは当然です。
信頼できる不動産会社を探して、売却活動を成功させましょう。
そのためには、複数の不動産会社へ査定依頼をして、対応や査定価格を比較したうえで依頼する方法をおすすめします。しかし、自分で1社ずつ問い合わせることは手間も時間もかかります。
そこでおすすめしたいのが、一括査定サービスです。一括査定とは、一度に複数の不動産会社へ見積もりを依頼できるサービスです。無料で利用できるので、ぜひ検討してみてください。
8.専属専任媒介契約書のチェックポイント
媒介契約が3種類あるように、媒介契約書も「一般媒介契約書」「専任媒介契約書」「専属専任媒介契約書」と3つの種類があります。契約内容は媒介契約の種類によって異なりますが、基本的なチェックポイントは共通しています。
契約締結前に以下の項目を必ず確認し、不明点があれば不動産会社へ確認しましょう。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 標準約款に基づくかどうか | 国土交通省は、不動産会社に対して標準約款に基づく契約をするように指導しているため、要チェック。 |
| 媒介契約の種類 | 一般媒介・専任媒介・専属専任媒介のどの媒介契約かを確認 |
| 対象物件 | 売却予定の物件情報を確認。 |
| 不動産会社の業務範囲 | どのような活動をして、どのような報告をしてくれるのか、 その他どのようなサービスを受けられるのか。 |
| 契約期間 | 契約期間はいつからいつまでか。（一般的に3カ月以内） |
| 更新の有無 | 自動更新になっていないか。 |
| レインズへの登録 | レインズへの登録有無、登録期限。 |
| 仲介手数料額 | 仲介手数料はいくらになるか。（上限3％＋6万円以内） |
| 依頼者の義務 | 他社と同時に契約してはならない（専任媒介）、 他社と契約する際は報告しなければならない（一般媒介）など。 |
| 契約解除時の条件 | どのような場合に契約解除できるのか、キャンセル料の有無。 |
| インスペクション | インスペクション事業者の紹介可否。 |
※インスペクション：建物の劣化状態、修繕が必要な箇所などを第三者機関に依頼して調査することです。
9.まとめ：「専任媒介」とは媒介契約の一種！
媒介契約は大きく分けて一般媒介と専任媒介があり、契約によって売却活動の方針が異なります。それぞれの特徴をよく確認したうえで、媒介契約を締結しましょう。
Q.媒介契約の種類によって仲介手数料は変わりますか？気になります！
A.媒介契約の種類によって、仲介手数料が変わることはありません。しかしながら、不動産会社によって仲介手数料は変わります。仲介手数料の上限は法律で決められていて、売買代金×3％＋6万円（消費税別）で算出することができます。
Q.専任媒介契約の締結にはどんなメリットがありますか？教えてください！
A.築年数が経っている、日当たりが悪いなど条件があり、売主自ら買主を見つけるのが難しい場合でも、不動産会社が売却活動に力を入れてくれるため、買主が見つかりやすいです。また、窓口を一本化できるため、不動産会社とのやり取りの負担が減ります。
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